借金のカタに取られました
航平の今と幼少期
クラスメイトの健は女性に人気があり、千那も陰ながらファンだった。真子しかそのことを知らないし、そもそも真子以外に友達といえる人はいない。
体育の時間で男子がサッカーをしている時、女子は授業そっちのけで皆、健を見ていた。健は優しくて、女子を誰でも平等に扱い接してくれた。
他の男子は好きな子だけに優しくし、興味のない女子にはきつくあたったり、あからさまに雑に扱ったりしたので、その点で健は女性から絶大な支持を集めていた。
千那もクラスでは地味で、目立つ男子達からは存在すらしていなかった。
その点、真子は積極的で明るくて男子にも人気があり、男子だけではなく、女子の友達も多いに係わらず、自分と一番親しくしてくれて心から誇らしかった。
真子の彼氏は同級生で、高校一年の時に告白されて以来お付き合いをしている。
学校の中でも公認の仲で、そんな真子をいつも羨ましく見ていた。
千那が初めて付き合った彼氏は、中学校の同級生で卒業してから告白された。
自分がまさか告白されるなんて思いも寄らなかったので、初めは騙されていると思ったほどだった。
しかし、付き合ったのは高校一年の春から冬までで長くは続かなかった。
これを付き合ったと言って良いのかどうかもわからないレベルで、航平に馬鹿にされるのも仕方がないお付き合いだった。
千那もおとなしいが彼もおとなしい性格で、電話をしても公園に行っても会話が続かず苦痛になっていった。
冬休みに一緒に水族館に行き、その帰りにキスをされたが、それ以降気まずくてギクシャクし自然と別れてしまった。
真子には 「おこちゃま」と、さんざん冷やかされたが、千那のファーストキスとして大切に心に仕舞われていた。
それなのに今ではあんな濃厚なキスをしているなんて、真子が聞いたら驚くだろう。
いつものように学校の門を出ると、秘書の牧田が待っていた。
だいたい航平が三割、牧田が七割の割合で送り迎えしてくれていた。
千那が乗り込むと、いつものように車が走り出した。
いつも会話はないので窓の外を見ていると、家ではなく違う建物の前で停車する。
「今日、こちらに連れてくるように社長に言われていますので」
車を降りると
「箕島(みのしま)コーポレーション」と書いてある。
箕島とは航平の苗字だった。
「もしかして……」と言いかけると
「社長の会社です。どうぞ」と案内されて中に入る。
五階建てのお洒落で近代的なビルで、貸金業だと聞いていたのでイメージが違っていた。
エレベーターで四階まで上がると、牧田は社長室と書いてある部屋に案内してくれた。
扉を開けると航平が机に座っている。
「お、来たか」
牧田は航平に軽く会釈すると、部屋をあとにした。
「そこに座れ」とソファーを指さされる。
黙って従うと同時に女性が飲み物を持って現れ、千那の前に置いた。
「ありがとうございます」と慌てて言うと
にっこりと微笑んで、社長室を後にした。
「ここが俺の会社だ。金貸しだけやってるんじゃないからな。あれはただの副業。というか、殆ど今は稼働していない。メインは海外との貿易だ。単なる金貸しと思われるのもむかつくから説明しておこうと思ってな」
単なる悪徳金貸しと思っていたので、それも見透かされていたんだなと冷や冷やする。
「俺のこと、知りたいんだろ?」
知りたいと言ったけどいつも強引だし予定は言わないし、なのにこんな大きな会社をやっているのだから、その強引さは仕事に生かされているのかなと思っていると、また見透かされたように
「俺がどうしてここまで会社を大きくしたか知りたくないか?」
と言われて焦る。
この人の前では嘘がつけないなと観念する。
「はい。知りたいです」
「今日はやけに素直だな」と意地悪に笑う。
「俺はイギリスの大学を出て、イギリスで就職したんだ。それが縁で知り合ったイギリスの会社と取引し日本で会社を起業することになった。少々強引にビジネスは進めてきたが、それは間違いではなかった。意外に大手企業というのは準備ばかりに時間と労力を掛けて、実際に行動を起こすのは非常に遅いんだ。企画書や報告書ばかり作っている間に俺はその横をすり抜けてきた。ま、難しい事いってもお前には理解できないだろ? 言いたいのは、まともな仕事をしているってことだよ」
確かに難しいビジネス用語なんてわからないけど、どうせって何よとむくれていると
「そんなことで拗ねんなよ。子供なんだから」と言われ何も言えなくなる。
社内を見学してきてもいいぞと言われたので、ブラブラと廊下を歩く。
ガラス張りの向こうでは、忙しそうにたくさんの人が働いている。こんな大勢の人を雇っているなんてと初めて尊敬の念が込み上げる。
この人達は社長の事をどう思っているのだろうか。いつも命令口調で嫌われていないのだろうか。
屋上に上がるとそこは一面芝生になっていて、都会とは思えない風景が広がっている。これって航平の趣味なのかな、とても緑が好きなタイプには思えないと考えていると秘書の牧田に声を掛けられる。
「社長は急な用事で出掛けられましたが、後で戻ってこられます。先に始めておいてとの事です」
「何を始めるの?」とキョトンとしていると
「聞いてないのですか?」
またいつものことだ。何も聞かされていない。
「本日は年に一度の立食パーティーです。社員全員参加で、色々美味しい物を食べたりゲームしたりする催し物です」
キャラにないことをしているのだなと不思議な感情を抱いていると
「このパーティーでの食事代は全て社長持ちなのです。ゲームであたる景品も全てです。食事の内容も有名寿司店のケータリングや屋台もあります。とても楽しいので行きましょう」
いつもロボットのような牧田さんが、表情を作って話しているのに驚く。
体育の時間で男子がサッカーをしている時、女子は授業そっちのけで皆、健を見ていた。健は優しくて、女子を誰でも平等に扱い接してくれた。
他の男子は好きな子だけに優しくし、興味のない女子にはきつくあたったり、あからさまに雑に扱ったりしたので、その点で健は女性から絶大な支持を集めていた。
千那もクラスでは地味で、目立つ男子達からは存在すらしていなかった。
その点、真子は積極的で明るくて男子にも人気があり、男子だけではなく、女子の友達も多いに係わらず、自分と一番親しくしてくれて心から誇らしかった。
真子の彼氏は同級生で、高校一年の時に告白されて以来お付き合いをしている。
学校の中でも公認の仲で、そんな真子をいつも羨ましく見ていた。
千那が初めて付き合った彼氏は、中学校の同級生で卒業してから告白された。
自分がまさか告白されるなんて思いも寄らなかったので、初めは騙されていると思ったほどだった。
しかし、付き合ったのは高校一年の春から冬までで長くは続かなかった。
これを付き合ったと言って良いのかどうかもわからないレベルで、航平に馬鹿にされるのも仕方がないお付き合いだった。
千那もおとなしいが彼もおとなしい性格で、電話をしても公園に行っても会話が続かず苦痛になっていった。
冬休みに一緒に水族館に行き、その帰りにキスをされたが、それ以降気まずくてギクシャクし自然と別れてしまった。
真子には 「おこちゃま」と、さんざん冷やかされたが、千那のファーストキスとして大切に心に仕舞われていた。
それなのに今ではあんな濃厚なキスをしているなんて、真子が聞いたら驚くだろう。
いつものように学校の門を出ると、秘書の牧田が待っていた。
だいたい航平が三割、牧田が七割の割合で送り迎えしてくれていた。
千那が乗り込むと、いつものように車が走り出した。
いつも会話はないので窓の外を見ていると、家ではなく違う建物の前で停車する。
「今日、こちらに連れてくるように社長に言われていますので」
車を降りると
「箕島(みのしま)コーポレーション」と書いてある。
箕島とは航平の苗字だった。
「もしかして……」と言いかけると
「社長の会社です。どうぞ」と案内されて中に入る。
五階建てのお洒落で近代的なビルで、貸金業だと聞いていたのでイメージが違っていた。
エレベーターで四階まで上がると、牧田は社長室と書いてある部屋に案内してくれた。
扉を開けると航平が机に座っている。
「お、来たか」
牧田は航平に軽く会釈すると、部屋をあとにした。
「そこに座れ」とソファーを指さされる。
黙って従うと同時に女性が飲み物を持って現れ、千那の前に置いた。
「ありがとうございます」と慌てて言うと
にっこりと微笑んで、社長室を後にした。
「ここが俺の会社だ。金貸しだけやってるんじゃないからな。あれはただの副業。というか、殆ど今は稼働していない。メインは海外との貿易だ。単なる金貸しと思われるのもむかつくから説明しておこうと思ってな」
単なる悪徳金貸しと思っていたので、それも見透かされていたんだなと冷や冷やする。
「俺のこと、知りたいんだろ?」
知りたいと言ったけどいつも強引だし予定は言わないし、なのにこんな大きな会社をやっているのだから、その強引さは仕事に生かされているのかなと思っていると、また見透かされたように
「俺がどうしてここまで会社を大きくしたか知りたくないか?」
と言われて焦る。
この人の前では嘘がつけないなと観念する。
「はい。知りたいです」
「今日はやけに素直だな」と意地悪に笑う。
「俺はイギリスの大学を出て、イギリスで就職したんだ。それが縁で知り合ったイギリスの会社と取引し日本で会社を起業することになった。少々強引にビジネスは進めてきたが、それは間違いではなかった。意外に大手企業というのは準備ばかりに時間と労力を掛けて、実際に行動を起こすのは非常に遅いんだ。企画書や報告書ばかり作っている間に俺はその横をすり抜けてきた。ま、難しい事いってもお前には理解できないだろ? 言いたいのは、まともな仕事をしているってことだよ」
確かに難しいビジネス用語なんてわからないけど、どうせって何よとむくれていると
「そんなことで拗ねんなよ。子供なんだから」と言われ何も言えなくなる。
社内を見学してきてもいいぞと言われたので、ブラブラと廊下を歩く。
ガラス張りの向こうでは、忙しそうにたくさんの人が働いている。こんな大勢の人を雇っているなんてと初めて尊敬の念が込み上げる。
この人達は社長の事をどう思っているのだろうか。いつも命令口調で嫌われていないのだろうか。
屋上に上がるとそこは一面芝生になっていて、都会とは思えない風景が広がっている。これって航平の趣味なのかな、とても緑が好きなタイプには思えないと考えていると秘書の牧田に声を掛けられる。
「社長は急な用事で出掛けられましたが、後で戻ってこられます。先に始めておいてとの事です」
「何を始めるの?」とキョトンとしていると
「聞いてないのですか?」
またいつものことだ。何も聞かされていない。
「本日は年に一度の立食パーティーです。社員全員参加で、色々美味しい物を食べたりゲームしたりする催し物です」
キャラにないことをしているのだなと不思議な感情を抱いていると
「このパーティーでの食事代は全て社長持ちなのです。ゲームであたる景品も全てです。食事の内容も有名寿司店のケータリングや屋台もあります。とても楽しいので行きましょう」
いつもロボットのような牧田さんが、表情を作って話しているのに驚く。