spicy◇candy
「面白い訳はない……」
もっと、気の利いた言葉を探しておけばよかった。倉井は俺の胸元までしかない身長で、すっかり俺の腕に抱かれていた。

これは完全に、傍から見ればバカップルである。こんな事、もちろん経験したことは無かった。だから倉井が初めての彼女にして、初めてのハグの相手となる。

ふと見ると、彼女は眼鏡の奥底からこちらを無気力に見つめていた。いや、急に男に抱きつかれ、むしろまた心をとざそうとしている瞳にも見えた。

……後者の方だった。倉井はその後、明らかに切れかけた瞳で俺を睨みつけると、教室まで全速力で駆けた。

はあ。なんで何もかも上手くいかねーのかな。
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