spicy◇candy
でも、連れていかれたのはやたらと人目に付く大通りで、駅前の売店が視界に入っている所であった。端的にいうと階段付近に連れていかれたのだ。そしてその相手は……

「お前……まだ帰ってなかったのか」
「うっさいな。あんな家もう二度と帰りたくないわよ」

強気な声と裏腹に、若干の涙を浮かべているかのような瞳。藤谷が俺を呼び出したのだということ以前に、彼女がまだ駅の中にいたということに衝撃を受けた。

でも理由は分かる。先生かつ親である、大崎先生(いや、きっと偽の苗字だから藤谷先生なのかもしれないが)と住んでいるが、複雑な理由で大喧嘩をしたため家に帰りたくなくなったのだと思う。

藤谷は強がりきれなくなったのか、俺の前で素直な涙を見せていた。俺は、迷わず彼女の頭を撫でた。藤谷は何も言わず泣いていた。
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