spicy◇candy
「出てみろよ」
顔を合わせないで、俺は一言言った。藤谷は本気で嫌そうに携帯を睨んでいた。その反応は父親からかかってきた通話だとすぐわかる。

藤谷は、決心したような表情で通話に出た。俺は気を使い、温かいお茶を出すという名目で部屋を退出した。

そっと扉を締めると、俺は複雑なため息を漏らした。そして、真紀の事を思い出し、心配してるのではないかという事も考えたが、彼の事だ。上手く気持ちの転換は出来ていると信じている。

「これだからあんたの事は嫌いなのよ!」「それでも父親?!」「二度と家なんてごめんだわ!」

……俺はその場にいたくなくて、階段を全力で駆け下りた。藤谷の声を聞いていたら、泣きそうだったから。会話を聞いていたら、とてつもなく切なかったから。
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