spicy◇candy
母は職員室に通され、俺は大崎先生と共に階段を昇った。溶けたはずの緊張がまた、ぶり返してゆくのがすぐにわかった。

「転校か……僕も何度も経験したけど大変だよなぁ」

階段を昇っている時、そんなことを呟く先生の瞳は何かを懐かしむように空間を見つめていた。俺は申し訳なさそうにしているしかなかった。

踊り場に差し掛かった時、先生はふとこちらを振り返り、優しく告げた。

「不安なんて誰でもあるから。困った時は一番にこの僕を頼ってね」

……もちろんです。その一言が出なかった。
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