うおうさおう
終電近く、終恋遠く
夢を見ていた。都合のよい、まさに夢を。

不規則な揺れと音、一定の世界のなかで、覚めなければいいのに。冷めなければならないのに。

あの匂いにまた手を伸ばしていて、嫌になるのは自分の諦めなさ。

漂う甘いピンクの世界から徐々に落ちていく。

ずゆずゆ、ずむずむ、ずゆむり。

少しの色の変化にまた目を瞑る。

そうして黒さが染みた頃、突然怖くなって聞こえてきた声にしがみついたんだ。

今度は戻ってきてくれた?もういなくならないで。

込み上げるものに従って、目をあけて、ぬくもりを。欲しい、欲しい、欲しい。

僕は今日、自分をウサギと思いました。



"なにか違う‥?"ぼんやりと思いながら、唇をはなすと驚いた女の人が、何も言えずに僕の前にかがんでいた。肩につく薄茶色の髪と儚げさを持った彼女は、あの人に似ても似つかない。つり革が揺れと共に揺れる。白い肌で、薄いピンクの口紅をつけ小さくた彼女の口は、ぽかりと開いている。がたん、がたんと進む3秒後くらいに自分が何をしてしまったのか、理解した僕は、赤面と共にシートを飛び上がって謝罪した。

「すいません!疲れていたというか、寝ぼけていて、別の人を思っていました!せっかくの親切を‥もう、なんといったらいいのか‥」

「もう謝らなくていいですよ、気にしてませんし、終電近くで疲れていらっしゃるのは分かりますから。」
まだ少し赤くした頬で、彼女は微笑みを浮かべて続ける。「それに、大切に想う人はどこでも、ずっと、想ってしまうものですから。」

あぁ、同じなのか。「いや、でもその人にフラれたというか、逃げられたというか、 説明しづらいですが、もういないんです。」あまり言いたくないから、もごりながら付け加える。

「そうなんですか、私達似てますね。」と小さく呟いた彼女はそれじゃあ、おやすみなさいとドアへ向かう。

金曜日、23:26 僕はこの1週間のすべての勇気を振り絞った。

「このあと時間ありますか?」
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