銀木犀
「私ね、金木犀よりも銀木犀の方が好きなんだ」
「えっ!?」
唐突にユカがそう言った時、僕は一瞬何のことか分からなかった。
僕は僕が銀木犀を好きなことは誰にも言ったことがない。
男が花を好きだなんて陳腐すぎる。
だから誰にも言ったことがなかったのだ。
僕はそう思った瞬間、ユカに心の中を見透かされたように言われたから、必要以上に驚いてしまった。
「そ、そんなに驚かないでよー!」
「……い、いや」
僕はしどろもどろになりながら、そう答えるのが精一杯だった。
彼女は相変わらず飄々としていたが、僕は一瞬彼女の目に流れた小さな悲しみを見た。
あれはいったいなんだったんだろう?