銀木犀
第5章 スーツ遊び
(そうだったなあ……銀木犀……あれが最初だったなあ……)
僕はあの時と同じ校庭の掛け声に耳を澄ませ、風になびくカーテンを見ていた。
中庭に長く伸びた影は、はしゃぎながら歩く女の子達。
ところどころ禿げかけた壁に塗り重ねられた塗料や、張り替えられた見知らぬ床の素材がなければ、僕はあの時にいるという錯覚に陥っていたかもしれない。
僕は腕時計に目をやる。
約束の時間までは、まだ十分にある。
約束の時間。
約束……。