銀木犀
モンブランの頂上の栗を、愛おしそうに口に運んでいたお母さんは、あわててフォークをケーキの横におき、正座して真正面に座った。
実はこの後「お母さん……ユカさんを僕にください!」と言うつもりだったのだが、何か不穏な空気を感じたのか、いたずらだと見破ったのか、お母さんの目の中に、今でも形容しようがないのだが、深い色の揺らめきを見た。
僕はそのお母さんの変化を見てとまどい、動揺し、次に繋ぐ言葉を間違ってしまった。
今でも、何故あの時、あのセリフになったのか定かではない。
「ユ、ユカさんと……け、結婚を前提に……お、お付き合いさせてください!」
ユカが驚いて後ろから背中を小突く。
でも、言ってしまったのは仕方がない。
このままやり通すしかない。