銀木犀
その時僕は、教室で悪友の部活が終わるのを待っていた。
僕が中学校まで続けた野球を高校でやらなかったのは、単に全てが面倒になったからだ。
それが何かは分からないが、更なる精進で得れるもの、そういうものが本能的に不必要と判断したのかもしれない。
それとも、ただ逃げ出したかったのかもしれない。
とにかく僕は、誘われれば友人の部活が終わるまで教室で本を読みながら待ち、そうじゃない時は真っ直ぐ家に帰って、奥様方が大好きなワイドショーを見る。
そんな若さの浪費というか自堕落な生活を送っていた。
カラカラと乾いた音を立て、教室の後の引き戸が開く。
僕は頭を上げるのも億劫で、そのまま本を読み続けた。
「あれ? 藤田君? 何してんの?」
そう僕に呼びかけたその声を、僕は顔を上げることなく確認することが出来た。