銀木犀
僕とユカはその場をどう繕ったのか、今でも覚えていない。
お母さんがああ言ってくれてた時、僕の視界の隅にはお父さんが、ユカの後ろの襖からは妹達が顔を出していたらしい。
他の三人も、つまり家族全員が、僕らのいたずらを本気にして固唾を飲んで見守っていたのだ。
つまり全員が本気にしたのだ。
「ふぅ……大変なことしたな……」
「うん……」
お母さんは勝手口から送り出してくれた時、一瞬寂しそうな表情をしたが、すぐにいつものお母さんに戻って「また、おいで!」と言ってくれた。
僕は今後もユカの家に行くだろう。
だけど、あんないたずらは二度としないと心に誓った。
僕がこれほど可愛がってもらっていた理由が、あれほど彼女の母親から信頼され、あれだけ愛されていたからなんだと今更ながらやっと理解した。
もう裏切ったりしない。