イジワル御曹司に愛されています
最後に、聞かせてほしいと食い下がった私たちに、どこか恥じ入るようにむっつりと先生が教えてくれた"無配慮"とは、展示会物件のあちこちに記載してある協力団体一覧の並びのことだった。
先生の所属する団体より前に、ケンカ相手のものが載っていたのだ。
「そもそもあれ、なんの順なんだ? 50音でもないし」
「団体の設立順とか、力関係とかを考慮した、協会に代々伝わる名簿の並びなの。毎年更新されて、門外不出。個人名だとまた別の並びがあって」
「デリケートそうだな…」
「そうなの…」
誤っていたわけでは決してない。けれどケンカがあったと聞いたとき、確かにそこを気にするべきだったのだ。すでにそのときには印刷されていたので、直せるわけではなかったけれど。
私から報告を受けた松原さんも、いかにも『そんなことで』と言いたそうな間を置きつつ、なにも言わなかった。「たかが」なんて軽々しく言えないのだ。だからこそ名簿が存在するのだから。
「刷り直さなくていいって言ってくれてよかったね」
「そっちのスタンバイも整ってたんだけどな。やっぱりロスも大きいから、助かった。で、どのへんで飲む?」
「あっ、そうだね」
いい機会だから、気になっていたお店を試すのにつきあってもらっちゃおうかな、なんて考えていると、都筑くんの携帯が震えた。
この間がイタリアンだったから、焼き鳥屋さんみたいなこてこての居酒屋さんもいい。あーでも、都筑くんはワインとかのほうが好きかな?
ひとりで考えをふくらませているうち、隣を歩く都筑くんが、無言になっていることに気がついた。足取りも鈍くなり、やがて止まってしまう。
二歩ほどよけいに歩いてしまった私は、携帯を見つめたまま動かない彼の様子に、不安を抱いた。
「…どうしたの」
なにも答えてくれない。
駆け寄って、腕をそっと揺すってみた。
「都筑くん、大丈夫?」
「親父、死んだって」
その事務的な声は、夜の住宅地に、染み込むみたいにぽつんと落ちた。都筑くんの顔に、表情と言えるようなものは浮かんでいない。それが怖い。
「あの、じゃあ、帰らないと…」
「いや」
駅の方角を指さした私に、首を振ってみせる。携帯を胸ポケットにしまって、視線を落としたまま彼が言った。
先生の所属する団体より前に、ケンカ相手のものが載っていたのだ。
「そもそもあれ、なんの順なんだ? 50音でもないし」
「団体の設立順とか、力関係とかを考慮した、協会に代々伝わる名簿の並びなの。毎年更新されて、門外不出。個人名だとまた別の並びがあって」
「デリケートそうだな…」
「そうなの…」
誤っていたわけでは決してない。けれどケンカがあったと聞いたとき、確かにそこを気にするべきだったのだ。すでにそのときには印刷されていたので、直せるわけではなかったけれど。
私から報告を受けた松原さんも、いかにも『そんなことで』と言いたそうな間を置きつつ、なにも言わなかった。「たかが」なんて軽々しく言えないのだ。だからこそ名簿が存在するのだから。
「刷り直さなくていいって言ってくれてよかったね」
「そっちのスタンバイも整ってたんだけどな。やっぱりロスも大きいから、助かった。で、どのへんで飲む?」
「あっ、そうだね」
いい機会だから、気になっていたお店を試すのにつきあってもらっちゃおうかな、なんて考えていると、都筑くんの携帯が震えた。
この間がイタリアンだったから、焼き鳥屋さんみたいなこてこての居酒屋さんもいい。あーでも、都筑くんはワインとかのほうが好きかな?
ひとりで考えをふくらませているうち、隣を歩く都筑くんが、無言になっていることに気がついた。足取りも鈍くなり、やがて止まってしまう。
二歩ほどよけいに歩いてしまった私は、携帯を見つめたまま動かない彼の様子に、不安を抱いた。
「…どうしたの」
なにも答えてくれない。
駆け寄って、腕をそっと揺すってみた。
「都筑くん、大丈夫?」
「親父、死んだって」
その事務的な声は、夜の住宅地に、染み込むみたいにぽつんと落ちた。都筑くんの顔に、表情と言えるようなものは浮かんでいない。それが怖い。
「あの、じゃあ、帰らないと…」
「いや」
駅の方角を指さした私に、首を振ってみせる。携帯を胸ポケットにしまって、視線を落としたまま彼が言った。