イジワル御曹司に愛されています
展示会への出展を決めてから、はや3か月。なかなかの頻度で、こういう苦行のような時間が発生している。

セミナーの準備のほうは順調なのだ。登壇者に出演の依頼をして、テーマを決めて原稿を作って…というのは、ほぼいつもの業務と変わらない。

けれど三日間のイベントに自社ブースを持ち、企画も運営もすべて自分たちの手で行うというのは、まったく新しい仕事。

『プラン、できた?』と都筑くんに言われ、おそるおそる提出した計画書は、冷たい一瞥をくらったのちに差し戻された。


『これ、1名×2ポジションで2名って書いてるけどさ、それでこっちの人員リストにも2名しか枠ないってなんだよ。8時間ベタ付きなのにこれで回るわけないだろ。休憩は? 交代は? 算数じゃねーんだよ、バカなのか』


万事がこの調子。

それなりに自分の仕事は回せていると自負できるくらいのキャリアを積んできたこの4年目という時期に、氷水をぶっかけられたような気持ちだった。


「私、もしかして使えない…」


思わず泣き言を漏らすと、彼がぴくっと反応する。それを感じた私は委縮し、室内の空気が微妙に緊張した。

都筑くんは音を立てて資料を置き、すらっとした脚をほどくと出ていった。この見捨てられた感、堪えがたい。

でも仕方ない、やるって決めたんだ、やらないと。

たくさんの修正を書き入れた資料に向かい、先ほど都筑くんに『詰め込みすぎ』とばっさり言われた展示内容を整理する作業に取り掛かる。

技術や環境の変遷、最先端の情報、それらに対してこの協会がどうかかわってきたか。絞ろうとすればするほど言いたいことが溢れてしまう。

絶望的な思いで会場の小間図を見つめているうち、ふとひらめいた。


「あっ、環境にかんしては、東京の話に絞ってみる?」


そうだ、会場だって東京なんだから、そこに焦点を当てればいいのだ。戦後の高度経済成長期に、エネルギーへの需要がどう高まって変化したか。


「この辺の説明なら、うちの部署のほうがいいかも…常時いる必要はないけど、例えば定期的にプレゼンの時間を作るとか」

「ほらな、やればできる」


ふいに声が聞こえてきて、はっとした。

急に思考から浮上したせいで、一瞬きょろきょろしてしまい、それから戸口のところに立っている都筑くんに気づいた。腕を組んで、ドアにもたれている。

ひとりでぶつぶつ言っていたのを聞かれていたと知り、私は赤くなった。
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