イジワル御曹司に愛されています
叔父さんの声音にぴりっと鋭さが増し、男の人たち含め、室内が緊張した。


「だったらなんで、兄貴はお前にそんな大量の株をやったんだ? 俺に会社を任せたいなら、最初から俺に渡せばよかったんだよ」

「それも叔父さんが先に裏切ったからだ。母さんのことだって」

「あの女のことはお前もよく知ってるだろ。病床の旦那を気遣いもしねえで、夜がさみしいって自分のことばかり考えてるバカだよ」

「そこにつけ込んだんだろ!」

「兄貴もいなくなったことだし、相手するメリットは俺にはもうない。お前がしっかり面倒見てやれよ。じゃないとまた、ほかの男を探しに行っちまうぜ」


都筑くんが息をのんだ。怜二さんがそれを見て、にこりと満足げに笑む。


「ま、それ書いてもらえれば、俺が引き続き世話してやらんでもない」

「…この譲渡先の子会社って、叔父さんの会社だった?」

「俺の意向を汲んでくれる会社、になったんだ」


ぎゅっと都筑くんの手に力がこもった。

周到で容赦ない計画が、知らないところで動いていたのを知って、ショックに違いない。大事なお父さんを亡くしたところに、この仕打ち。

信頼していた叔父さんからの、この仕打ち。

そんなのって、ないよ。

じっと黙り込んでいた都筑くんが、ふうっと静かな息をついた。ペンが書類の上を走り出す。


──なんか、疲れた。


ぽつりと吐かれた声を思い出した。

都筑くん。ダメだよ。

ダメだよ都筑くん──…。

彼がぴくりと手を止めて、振り返った。私が背中の服を、つかんだからだ。


「ダメだよ、書いちゃ」

「千野…」

「お父さんから譲り受けたんでしょ、大事なものでしょ」


都筑くんの目が、迷いに揺れる。それでもたぶん、もういいや、という気持ちのほうが強い。

私は手を伸ばし、都筑くんからペンを取り上げた。
< 128 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop