イジワル御曹司に愛されています
机に伏せたりしていればまだよかったものの、よりによって背後の壁に頭をもたれさせて、椅子から落ちそうになって間抜けな顔ですやすや寝入っている。

一瞬の油断だったと思っていたのに、まさか松原さんに撮られていたなんて!

都筑くんはご機嫌でそれを眺めている。


「見てると悩みが吹き飛びそう」

「嫌味?」

「本音」


ふてくされて枕を抱える私のほうに、ごろんと身体を向けて頬にキスをくれる。タオルケットの中で、火照りを残した素肌がぶつかった。


「素直に受け取れよ。俺にとって千野は、けっこうそういう存在なんだよ」

「そういうって」

「元気とか勇気とか、くれる」


片肘で身体を支えて、ゆるく私に腕を回して、見下ろしてくる優しい目。

再会したときなじった神様に、心の中で謝罪した。


「一緒にいるだけで?」

「うん」

「じゃあその写真は消して」

「消さない」


うまく隙を突いたと思ったのに、携帯に伸ばした手は空振りに終わる。


「いいよ、なら私も都筑くんの写真撮る」

「撮らせねーよ」

「寝てる間に撮るもん」


ちょっと黙ったので、しめしめとほくそ笑んだのだけれど、甘かった。一気に温度の下がった声が、冷ややかに告げる。


「じゃ、今後いっさいお泊りなしな。今日も晩メシ食ったら帰れ」

「そういう優先順位!?」

「お前が卑怯なこと考えるからだ!」

「冗談だよ!」

「嘘つけ、半分本気だったろ」
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