イジワル御曹司に愛されています
番外編:ステップ・バイ・ステップ
Part 1
雨まで降ってきやがった。
肌に触れた最初の一滴は、よりによって頬に落ち、これじゃまるで泣いているみたいじゃないかと、みじめな気分でそれを拭った。
もう着ることもない学生服。ちょっとそのへんに置いておいた間に、ボタンはほぼ全部消えていた。くだらない風習に便乗して、名央のボタンを手に入れたどこかの誰かが、今ごろ浮かれているのかと思うとくさくさする。
こっちは最低の気分だというのに。
『もう、会わずに済むのが、本当に嬉しい』
両手を白くなるくらい握りしめて、もう耐えられないという怒りを全身ににじませて、名央を拒絶してきた千野。
(声、震えてた)
なにをしてきたんだろう、自分は。
三年間というそれなりに長い期間、なんだってできたはずなのに、最後の最後でああ言わせるほどの嫌悪感を、人ひとりに抱かせただけ。
なんだか本当に、物理的に斬られたような痛さが、さっきから身体を襲っている。これはなんだ。
なんだと自問しておきながら、答えはもう見つけてある。あまりにも子供っぽい事実だったので、とっさに目をそらそうとしたものの、そのほうが子供っぽいと気づいてやめた。
なにしてんの俺、と自嘲する。
偶然知った、千野の合格を、祝う権利が自分にもある気がしたというだけだった。いつも話しかけると、反応に困ったような怯えたような顔しか見せない彼女も、そういう話題なら返事くらいするかな、とか。
俺も東京、とか。続ける話題も、なくもないかな…とか。そんなことを考えて。
いつも千野を見ていた中庭。足元の芝が、しっとりと重たく冷えてくる。
「なにしてんの、ほんと…」
いつの間にか、雨は校舎の上のほうを霞ませるほどになっていた。
肌に触れた最初の一滴は、よりによって頬に落ち、これじゃまるで泣いているみたいじゃないかと、みじめな気分でそれを拭った。
もう着ることもない学生服。ちょっとそのへんに置いておいた間に、ボタンはほぼ全部消えていた。くだらない風習に便乗して、名央のボタンを手に入れたどこかの誰かが、今ごろ浮かれているのかと思うとくさくさする。
こっちは最低の気分だというのに。
『もう、会わずに済むのが、本当に嬉しい』
両手を白くなるくらい握りしめて、もう耐えられないという怒りを全身ににじませて、名央を拒絶してきた千野。
(声、震えてた)
なにをしてきたんだろう、自分は。
三年間というそれなりに長い期間、なんだってできたはずなのに、最後の最後でああ言わせるほどの嫌悪感を、人ひとりに抱かせただけ。
なんだか本当に、物理的に斬られたような痛さが、さっきから身体を襲っている。これはなんだ。
なんだと自問しておきながら、答えはもう見つけてある。あまりにも子供っぽい事実だったので、とっさに目をそらそうとしたものの、そのほうが子供っぽいと気づいてやめた。
なにしてんの俺、と自嘲する。
偶然知った、千野の合格を、祝う権利が自分にもある気がしたというだけだった。いつも話しかけると、反応に困ったような怯えたような顔しか見せない彼女も、そういう話題なら返事くらいするかな、とか。
俺も東京、とか。続ける話題も、なくもないかな…とか。そんなことを考えて。
いつも千野を見ていた中庭。足元の芝が、しっとりと重たく冷えてくる。
「なにしてんの、ほんと…」
いつの間にか、雨は校舎の上のほうを霞ませるほどになっていた。