イジワル御曹司に愛されています
* * *
「え? 絶対嫌だ」
携帯の向こうの世界で、甲高い声が喚いていた。意味を取ろうとしたところで無駄なのがわかっているため、意識の半分くらいをそちらに残し、あとの半分で手元の勉強を進める。
「結局さあ、俺関係なくね? 自分でなんとかしてくれる? もう少しまともな会話できるようになったらまたかけてきて」
なおも喚き声は続いていたが、気にせず切った。文献から引用したい事例を思い出したのに、大量に読んだどの本に書かれていたのか忘れてしまった。やはりメモを取りながら読まないとダメだ。
大学内にある不人気なカフェで、四人掛けの席のひとつを占領している。なぜ不人気かというと、ここだけほかと違い、Wi-Fiがフリーじゃないからだ。
長居されるのを防ぎたかったのか、外食チェーンなので他店舗と合わせる必要があったのかわからないが、通信費で静けさを買えると思えば安い。
さっきの事例があったらラッキーだな、と持ってきた書籍をダメ元でぱらぱらめくっていると、再び携帯が鳴った。つい舌打ちが出る。電源を落としておけばよかった。
「しつこいんだけど」
『しつこくした記憶はないのですが、申し訳ありませんでした』
思わずもう一度舌打ちし、テーブルの上で頭を抱えた。
「ごめん、久芳さん、間違えた」
『恋人に対してあの第一声はどうかと思いますよ』
「そんな恥ずかしい名前の相手じゃねーよ」
『ではセフレ?』
飲もうとしたコーヒーをブッと吹いた。どこで仕入れたんだか知らないが、久芳にそういう言葉を使われると違和感しかない。
『名央も二十歳を過ぎて、少しは落ち着いたと思ったんですがね』
「違うって、違うって。そんなんでもない。誕生日とかだって、ちゃんとやってるし、ひとりだけだし、今んとこ」
『買ってと言われたものを買い与えているだけなのは"ちゃんとやってる"とは言いません』
「…そうなの?」
ていうか、なんで知ってんの?
ここ最近一緒にいるようになった、さっきの電話の相手を思い浮かべる。
ゆうべはそこそこおいしい夜を過ごして向こうの部屋に泊まった。今日はふたりで遊びに出かける予定だったのだが、出がけに彼女の機嫌が悪くなった。
「え? 絶対嫌だ」
携帯の向こうの世界で、甲高い声が喚いていた。意味を取ろうとしたところで無駄なのがわかっているため、意識の半分くらいをそちらに残し、あとの半分で手元の勉強を進める。
「結局さあ、俺関係なくね? 自分でなんとかしてくれる? もう少しまともな会話できるようになったらまたかけてきて」
なおも喚き声は続いていたが、気にせず切った。文献から引用したい事例を思い出したのに、大量に読んだどの本に書かれていたのか忘れてしまった。やはりメモを取りながら読まないとダメだ。
大学内にある不人気なカフェで、四人掛けの席のひとつを占領している。なぜ不人気かというと、ここだけほかと違い、Wi-Fiがフリーじゃないからだ。
長居されるのを防ぎたかったのか、外食チェーンなので他店舗と合わせる必要があったのかわからないが、通信費で静けさを買えると思えば安い。
さっきの事例があったらラッキーだな、と持ってきた書籍をダメ元でぱらぱらめくっていると、再び携帯が鳴った。つい舌打ちが出る。電源を落としておけばよかった。
「しつこいんだけど」
『しつこくした記憶はないのですが、申し訳ありませんでした』
思わずもう一度舌打ちし、テーブルの上で頭を抱えた。
「ごめん、久芳さん、間違えた」
『恋人に対してあの第一声はどうかと思いますよ』
「そんな恥ずかしい名前の相手じゃねーよ」
『ではセフレ?』
飲もうとしたコーヒーをブッと吹いた。どこで仕入れたんだか知らないが、久芳にそういう言葉を使われると違和感しかない。
『名央も二十歳を過ぎて、少しは落ち着いたと思ったんですがね』
「違うって、違うって。そんなんでもない。誕生日とかだって、ちゃんとやってるし、ひとりだけだし、今んとこ」
『買ってと言われたものを買い与えているだけなのは"ちゃんとやってる"とは言いません』
「…そうなの?」
ていうか、なんで知ってんの?
ここ最近一緒にいるようになった、さっきの電話の相手を思い浮かべる。
ゆうべはそこそこおいしい夜を過ごして向こうの部屋に泊まった。今日はふたりで遊びに出かける予定だったのだが、出がけに彼女の機嫌が悪くなった。