イジワル御曹司に愛されています
メモを見つめながらつぶやくと、久芳が採点をするように、満足そうにうなずいた。
「会社を弱体化させる気はないってことだし、わからない人には、この人事はただのごく自然な新陳代謝に見える」
「さすが名央」
自分でこの偏った英才教育を施しておいて、なに言ってんだよ。
よくわからないうちに、父の陽一とこの久芳が望んだ通りに育ってしまった自分を恥ずかしく思いながら、心の中で毒づいた。
陽一からは帝王学を。久芳からは詳細すぎるほどの内情を。そして両方から、ビジネスというものの原理原則と肌感覚を。
名央は「あなたにとって会社とは」と問われたら「経営するもの」と答えるのが自然と感じるほどそれに染まっており、さすがに最近まずいと感じ、もう少し一般的な感覚が欲しいと思うようになった。
「怜二が戦略部長になってから、海外事業は伸びに伸び、おかげで会社は三期連続の増収増益です。彼自身の昇格に文句を言える人は誰もいないでしょう」
「次行くとしたら、国内事業のどこか?」
「まず間違いなくね」
「まあ最短ルートとしては、営業本部長で、常務執行役員かな。で、実績残して取締役に」
「せっかく先代から陽一が社長を継いで以来、一族である社員の特別待遇が撤廃されたというのに、怜二は実力もあるものだから、手が付けられない」
「実力があるなら、普通にしてても昇っていけるだろうに」
「彼も難儀な性格の持ち主なんですよ」
苦笑する久芳は、陽一と大学の新聞部で同期だった。彼らの大学の新聞部は、一昔前であれば在籍しているだけで新聞社への入社が決まるほどのエリート集団だ。陽一と久芳は曜日違いの一面担当記者。互いへの尊敬で固く結ばれた友情は、薄れることを知らぬまま今でも続いている。
一方の怜二は、天才肌の兄に一歩届かない秀才というのが久芳から聞いている評価で、決して仲が悪かったわけではないが、弟の心中には兄への複雑なコンプレックスが根付いていたようだ。
名央などから見ると、少し間違えば変人扱いされかねない個性的な父より、如才ない怜二のほうがずっとスマートで格好よく見え、憧れの対象であったのだが、そこはそれ、本人には本人にしかわからないなにかがあるのだ。
「人事のトップが変わっちゃうんだね」
「そう。名央がこの会社に入るのは、少なくとも当分無理でしょう。覚悟はしておきなさい」
「会社を弱体化させる気はないってことだし、わからない人には、この人事はただのごく自然な新陳代謝に見える」
「さすが名央」
自分でこの偏った英才教育を施しておいて、なに言ってんだよ。
よくわからないうちに、父の陽一とこの久芳が望んだ通りに育ってしまった自分を恥ずかしく思いながら、心の中で毒づいた。
陽一からは帝王学を。久芳からは詳細すぎるほどの内情を。そして両方から、ビジネスというものの原理原則と肌感覚を。
名央は「あなたにとって会社とは」と問われたら「経営するもの」と答えるのが自然と感じるほどそれに染まっており、さすがに最近まずいと感じ、もう少し一般的な感覚が欲しいと思うようになった。
「怜二が戦略部長になってから、海外事業は伸びに伸び、おかげで会社は三期連続の増収増益です。彼自身の昇格に文句を言える人は誰もいないでしょう」
「次行くとしたら、国内事業のどこか?」
「まず間違いなくね」
「まあ最短ルートとしては、営業本部長で、常務執行役員かな。で、実績残して取締役に」
「せっかく先代から陽一が社長を継いで以来、一族である社員の特別待遇が撤廃されたというのに、怜二は実力もあるものだから、手が付けられない」
「実力があるなら、普通にしてても昇っていけるだろうに」
「彼も難儀な性格の持ち主なんですよ」
苦笑する久芳は、陽一と大学の新聞部で同期だった。彼らの大学の新聞部は、一昔前であれば在籍しているだけで新聞社への入社が決まるほどのエリート集団だ。陽一と久芳は曜日違いの一面担当記者。互いへの尊敬で固く結ばれた友情は、薄れることを知らぬまま今でも続いている。
一方の怜二は、天才肌の兄に一歩届かない秀才というのが久芳から聞いている評価で、決して仲が悪かったわけではないが、弟の心中には兄への複雑なコンプレックスが根付いていたようだ。
名央などから見ると、少し間違えば変人扱いされかねない個性的な父より、如才ない怜二のほうがずっとスマートで格好よく見え、憧れの対象であったのだが、そこはそれ、本人には本人にしかわからないなにかがあるのだ。
「人事のトップが変わっちゃうんだね」
「そう。名央がこの会社に入るのは、少なくとも当分無理でしょう。覚悟はしておきなさい」