イジワル御曹司に愛されています
Part 3
父は永遠の眠りにつき、千野は一晩だけ、名央のものになってくれた。
「帰ってくるなと言ったでしょう…」
「悪かったよ」
久芳がこめかみに青筋を立てている。こんなに怒った久芳を見たのは、初めてかもしれない。
「お忘れかもしれませんけどね、私の本業はあなたがたの会社の弁護で、今は米国で起きた集団食中毒の余波で不当な訴訟が起こる予兆があり、火消しに大わらわなんですよ、よりによって今逝ってくれた陽一を恨みたいくらいにね」
「俺、まだ入社前だし…」
久芳が座卓を叩くと、くつくつと湯気を吹いている土鍋が揺れた。
思っていた以上に久芳が本気で頭に来ているようだと気づき、名央は委縮した。著名人たちがよく使う、紹介制の料理屋の一室で、混ぜっ返そうとしたのを反省しながら身を縮める。
「ごめん、でも一目会いたかったんだ」
「私にその気持ちがわからないわけないでしょう。それでもなお、帰ってくるなと言った理由を考えなさい」
久芳の言う通りだ。
「浅はかだった、ごめん」
さらになにか言い募ろうとする様子を見せた久芳が、ふと口をつぐんだ。名央の顔をまじまじと見て、わずかに首をかしげる。
「なにかありましたか」
「え?」
「さっぱりした顔をしてる」
自分の顔が赤らむのを感じつつ、「うんまあ」と笑って返した。
「ちょっと、吹っ切れたっていうか、あきらめがついたっていうか」
「おや、あきらめてしまうんですか」
「なんの話かわかってんの?」
久芳なら、名央と千野の間にあったことをお見通しでもおかしくない。しかしさすがに恥ずかしく、動揺した名央に、久芳がきょとんとした。
「帰ってくるなと言ったでしょう…」
「悪かったよ」
久芳がこめかみに青筋を立てている。こんなに怒った久芳を見たのは、初めてかもしれない。
「お忘れかもしれませんけどね、私の本業はあなたがたの会社の弁護で、今は米国で起きた集団食中毒の余波で不当な訴訟が起こる予兆があり、火消しに大わらわなんですよ、よりによって今逝ってくれた陽一を恨みたいくらいにね」
「俺、まだ入社前だし…」
久芳が座卓を叩くと、くつくつと湯気を吹いている土鍋が揺れた。
思っていた以上に久芳が本気で頭に来ているようだと気づき、名央は委縮した。著名人たちがよく使う、紹介制の料理屋の一室で、混ぜっ返そうとしたのを反省しながら身を縮める。
「ごめん、でも一目会いたかったんだ」
「私にその気持ちがわからないわけないでしょう。それでもなお、帰ってくるなと言った理由を考えなさい」
久芳の言う通りだ。
「浅はかだった、ごめん」
さらになにか言い募ろうとする様子を見せた久芳が、ふと口をつぐんだ。名央の顔をまじまじと見て、わずかに首をかしげる。
「なにかありましたか」
「え?」
「さっぱりした顔をしてる」
自分の顔が赤らむのを感じつつ、「うんまあ」と笑って返した。
「ちょっと、吹っ切れたっていうか、あきらめがついたっていうか」
「おや、あきらめてしまうんですか」
「なんの話かわかってんの?」
久芳なら、名央と千野の間にあったことをお見通しでもおかしくない。しかしさすがに恥ずかしく、動揺した名央に、久芳がきょとんとした。