イジワル御曹司に愛されています
そこにちょうど最初のドリンクが運ばれてきたので、乾杯をした。

関東の片田舎から進学のために上京し、そのまま東京で就職した私とあかねは、職場がそう遠くないのをさいわい、今でも頻繁に会っている。

このところ私の出張が続いたので、今日は少し久しぶり。


「都筑って、大学こっちだったっけ」

「知らない…」

「そんな、営業マンとかやる感じじゃなかったよね」

「それが本当に営業マンなの、完璧に」

「無理、想像が追いつかない」

「がんばってよ! 私の上司なんて、もう絶賛。彼なら任せて大丈夫だとか」


お互い、真顔を見合わせる。


「え、ほとんど授業出てなかった、あの都筑だよね?」

「そう、いつも誰かしら女の子連れてた、あの都筑くん」

「学ラン着崩して、ピアスとか指輪とかして」


よかった、あかねと私の記憶はまったく同じだ。私の中の都筑くん像が、苦手意識によってゆがめられていたわけじゃないのだ。


「確かけっこうなお坊ちゃんじゃなかった?」

「そうだ。学校にも多額の寄付してるから、先生も手出しできないっていう」

「養護教諭の美人の先生との噂もあったよね」

「三年のときに教頭先生がいきなり辞めたのは、その先生と不倫してるのが都筑くんにばれて、再起不能にされたからだって」

「目が合っただけで殴られたとか」

「ポイ捨てした女の子に刺されたとか」


だんだん眉唾ものの噂話になってきた。つまり私の耳にもそんな噂が届くほど、有名だったということだ。主に悪い意味で。

あかねが黒ビールを飲みながら、「で、今は」と眉をひそめる。


「清潔なスーツを着こなした、ネクタイの似合うビジネスマン」

「営業力もすばらしい、と」

「何度も言うけど、完璧だった。愛想はいいけど媚びてなくて、なんでか、この人話しやすそうだなって思わせるの。実際は、必要なこと以外なにもしゃべってないのに」
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