イジワル御曹司に愛されています
「さっきの奴だって、ちょっと魔が差してたらなにされてたかわかんないんだぜ。暗いし人気もないし、引きずり込んでやりたい放題だ。危機感持てよ!」


はい。


「…ごめんなさい。あと、ありがとう」


素直に反省すると、都筑くんの指が矛先を失って揺れた。それでも厳しい顔を崩さずに「これから気をつけろ」と念押しする。


「はい」

「お前んち、どこ? 見ててやるよ、さっきの奴もまだいるかもしれないし」

「実は、ここなの」


私は真横のマンションを指さした。先日夜の散歩をした最後、都筑くんはここまでは来なかったのだ。


「マジか、じゃあ、はい。さっさと上がれ」


あっさりコンビニの袋を私に返し、追い払うように手を振る。


「都筑くんは、なんでここにいたの?」

「外出先から直帰するのに、この路線のほうが早かったんだ。腹減ったからコンビニ寄ろうとしたら、お前が見えて」

「あっ、昼間のことも、ありがとう。タクシーとか、ほんと助かった」

「そうだ、足、結局どうだった?」

「捻挫だって。骨には異常なし」

「そっか」


都筑くんは、ほっとしたように頬を緩めた。こういうところが優しいと思う。


「あの、おなかすいてるならどこか食べに行かない? 私、いろいろなお礼にごちそうする」

「その足でこれ以上歩いたらまずいだろ、お前は帰って休めよ」


いい案だと思ったのに。「でも、せっかくだし」としつこく言ってみても、都筑くんは眉をひそめるだけで取り合ってくれない。


「なにがせっかくなんだ」

「わからないけど、お礼しないと気持ちが収まらないし」

「じゃあ気持ちだけもらっとく」

「気持ちだけ取ってくとか泥棒だよ!」

「え、俺が悪いの?」
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