イジワル御曹司に愛されています
…はっ、ひらめいた!

私は彼の手をがしっと握った。都筑くんが一瞬、怯みを見せる。


「いい案があります」




背の高い姿が部屋の中央で、呆然としている。


「恩人の俺が居心地悪い思いさせられるって、変じゃね?」

「え、居心地悪い? 私の部屋、過ごしやすいって評判なんだけど」

「お前、開き直ると強いのな…」


コーヒーの支度をしながら答えると、低いぼやきが返ってきた。

評判がいいのは本当なのに。単に友達がそう言ってくれるってだけだけど。

ここはリノベーションが施されたマンションで、築年数は40年近い。けれど部屋は広くて9畳あり、元が和室なので収納もたっぷり一畳ぶんある。そして家賃はお値打ち。

家賃が浮いたぶん、家具には凝った。無垢材の床に合わせたベッド、ソファ、テーブル、マガジンラック。毛足の長いグレーのラグに、生成りとブラウンのクッション。隅のパキラがグリーンを添えて、ナチュラルでシックな、お気に入りの空間なのだ。


「なんか、意外」

「よく言われる」

「ピンクとかピンクとか、そういう感じかなと思ってた」

「無数の女の子と過ごしておいて、女にもいろいろいるって結論にまだたどり着いていないのは、どういうことなのかな」

「お前、そのネタ引っ張る気だな」


小さな木のトレイにコーヒーセットを載せて持っていくと、都筑くんも居直ることにしたらしく、鞄を床に置き、上着を脱いだ。


「テレビ見ていい?」


うんと私が言うより早く、ソファに座ってリモコンをいじる。ニュース番組を見つけると、前屈みでじっと見入りながら、クッションをひとつ手に取り、膝の上に抱えた。

他人の部屋でくつろぐのに慣れている人だ。それもたぶん、女の子の部屋で。


「食べよう」

「あのさ、この量一人で食う気だったの?」

「迷ったら両方買う主義なの」


コンビニの袋をどさりとテーブルに置くと、都筑くんが渋い顔をする。別に一度に食べようとしていたわけじゃない、そこ間違えないで。
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