イジワル御曹司に愛されています
ニュースに気を取られつつ、都筑くんが選んだのはグラタンだった。レンジで温め、おもてなしの気持ちを込めて、温めたグラタン皿にきれいに盛りつけ直し、スプーンを添える。
しかし都筑くんはちらっとそれを見たのみで、「いただきます」とつぶやいて食べはじめた。やはりときめきポイントが違うのか…。
フレンチプレスのブランジャーを押し下げ、コーヒーをふたつのカップに注ぐ。いい香りに誘われたのか、都筑くんがすぐに手を伸ばして、カップを取った。
「なにこれうまい」
「コーヒー好き?」
「まずいコーヒーが嫌い」
なるほど。
私はラグにぺたりと座り、野菜たっぷりのシチューを食べる。自分のぶんはプラスチック容器のままで十分なのだけれど、気分を出すためにこれも器に移してある。
都筑くんが熱心に観ているテレビでは、純国産航空機の話が流れている。こういうところからも、仕事のヒントを得ていたりするんだろうか。
話題の動画紹介のコーナーに入ると、彼は関心を失って、食事に集中しはじめた。
「…あの、タクシーの代金…」
「あ、いらない」
「親切な運転士さんだったね、40分くらい待たせたのに、ニコニコしてて」
「あの人は特別。俺は個人的にいつも指名してる。大事なお客さん乗せるときとかは、必ずあの人」
「指名なんてできるの?」
タクシーでそんなの、初めて聞いた。
真ん中に置いたサラダを取りながら、「できるよ」と都筑くんがうなずく。
「俺のほかにもそういう顧客がいて、聞いたら稼ぎのほとんどはそっちだって。予約でほとんどいっぱいで、その間に流してるって感じ」
「予約?」
「年配の人とか、歩くのが難しい人とかの、通院や買い物。最初は単なる気配りから、家の中まで荷物持って上がって、定位置に座ったり寝たりするところまで手伝って、そうやってたらいつの間にか指名が尽きなくなってたって」
それはもはや、需要を見つける能力というより、人柄だ。
「すごいね」
「すごいよな」
残り少なくなったグラタンをかき込んで、都筑くんがしみじみうなずく。
ワイシャツにネクタイ姿の人が、しかも都筑くんがこの部屋にいるという不思議に、改めて写真でも撮っておきたくなった。
しかし都筑くんはちらっとそれを見たのみで、「いただきます」とつぶやいて食べはじめた。やはりときめきポイントが違うのか…。
フレンチプレスのブランジャーを押し下げ、コーヒーをふたつのカップに注ぐ。いい香りに誘われたのか、都筑くんがすぐに手を伸ばして、カップを取った。
「なにこれうまい」
「コーヒー好き?」
「まずいコーヒーが嫌い」
なるほど。
私はラグにぺたりと座り、野菜たっぷりのシチューを食べる。自分のぶんはプラスチック容器のままで十分なのだけれど、気分を出すためにこれも器に移してある。
都筑くんが熱心に観ているテレビでは、純国産航空機の話が流れている。こういうところからも、仕事のヒントを得ていたりするんだろうか。
話題の動画紹介のコーナーに入ると、彼は関心を失って、食事に集中しはじめた。
「…あの、タクシーの代金…」
「あ、いらない」
「親切な運転士さんだったね、40分くらい待たせたのに、ニコニコしてて」
「あの人は特別。俺は個人的にいつも指名してる。大事なお客さん乗せるときとかは、必ずあの人」
「指名なんてできるの?」
タクシーでそんなの、初めて聞いた。
真ん中に置いたサラダを取りながら、「できるよ」と都筑くんがうなずく。
「俺のほかにもそういう顧客がいて、聞いたら稼ぎのほとんどはそっちだって。予約でほとんどいっぱいで、その間に流してるって感じ」
「予約?」
「年配の人とか、歩くのが難しい人とかの、通院や買い物。最初は単なる気配りから、家の中まで荷物持って上がって、定位置に座ったり寝たりするところまで手伝って、そうやってたらいつの間にか指名が尽きなくなってたって」
それはもはや、需要を見つける能力というより、人柄だ。
「すごいね」
「すごいよな」
残り少なくなったグラタンをかき込んで、都筑くんがしみじみうなずく。
ワイシャツにネクタイ姿の人が、しかも都筑くんがこの部屋にいるという不思議に、改めて写真でも撮っておきたくなった。