イジワル御曹司に愛されています
食べ終えると、都筑くんはクッションを抱えたまま、ずるずるとソファから降りてきた。私と同じラグの上で膝を抱え、ふうと息をついてソファに頭を預ける。

こんな時間まで仕事してたら、そりゃこんなふうに疲れるだろうなあ。


「お菓子もあるよ」

「俺そういうの食わない」

「え、全然?」

「うん」


買ってきたスナック菓子や焼き菓子を並べていた私は、驚いた。すごい、硬派。

ふとお菓子の箱の一つを、都筑くんが手を伸ばして取る。

あ、と思った。都筑くんの家の会社の商品だ。


「…同窓会、行く?」

「行かない」


なんの感情も浮かんでいない目で、パッケージを裏表させて眺めながらの、そっけない返事。


「どうして?」

「会いたい奴もいないし。高校にいい思い出もないし」

「そうなの?」


思わず甲高い声が出た。都筑くんがびっくりしたようにこちらを見る。

だって、私、"ああいう"種類の人たちは、毎日が楽しくて楽しくて、つまんねーって言っているのすら楽しくて、だから学校に来ているのだと思っていた。

私みたいに、部活と勉強で必死になって、テストで一喜一憂しているような余裕のない人間を…言い方は悪いけど、笑っているんだろうなと。


「俺、楽しそうに見えてた?」

「楽しそうっていうか…充実してそうに見えてた」

「あー、まあ、そう見せてなんぼだよな、ああいう奴らは」


まるで他人の話をするみたいに、言うんだね。

コンと箱をテーブルに戻すと、都筑くんがなにか言いたそうに、髪を掻く。


「俺には、千野のほうがずっと充実して見えてた」

「え…」

「毎日、授業が終わると一目散に部室に行ってさ、また出てきて、音楽室に向かうの、見てた。なんか、こういうやつ持って、あれなに?」

「…あ、フルートかな?」


都筑くんが両手で描いてみせたのは、細長い四角。吹奏楽部だった私が常に持っていた、フルートケースだ。
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