イジワル御曹司に愛されています
「なんか、いいよなあって。学校って、ああいうふうに過ごすためにある場所だよなあって、なんとなく思ってた」

「…都筑くんって、部活は入ってなかったんだっけ」

「中学でバスケやってたから、高校でも入ったんだけど、すぐやめた」

「なんで?」

「聞きたい?」


整った顔が、にやっと笑う。

え、なに、いきなり。

あれっ、ちょっと待って、私その噂、知っている気がする…。


「なんだっけ、部長さんか誰かとケンカして…」

「惜しい。女子マネの先輩とやったら、それが部長の彼女だったの」


それだ。

自慢できないエピソードを披露しておきながら、「あのときは殺されるかと思った」と当人は悪びれずに笑っている。


「なんか落ち着く、都筑くんのそういう最低な話聞くと」

「意味わかんないんだけど、どういうこと」


私の中の都筑くんは、実在したんだってことだよ。

うんうんとひとりでうなずく私に、怪訝そうな視線が向けられる。


「千野も俺の噂なんて、知ってるんだな」

「知ってるよお、ポイ捨てした女の子に刺されたんでしょ?」

「刺されてねーよ」


やっぱりあれは眉唾だったか。


「でもなんか、向こうの親友とかいう男がナイフ持って出てきたことはある」


刺されそうになってるじゃん!


「保健室の先生と関係があったっていうのは?」

「あー…ノーコメント」

「あったんだ…」

「うっせ。次は?」

「目が合っただけで人を殴ってた」

「ただの危ない奴だろ、それ」

「おうちが学校に多額の寄付をして、先生を黙らせてた」

「…公立校になに寄付すんの?」


そういえばそうだ…!

噂ってやっぱり、噂なんだな。まったく火のないところには立たないし、でも無責任な尾ひれもたくさんついて、ごくまれに、根も葉もなかったりする。
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