イジワル御曹司に愛されています
そっかあ、と私はすごく腹落ちした気分で、満足の息をついた。


「都筑くんは本当に、あの高校にいた都筑くんだったんだね」

「お前、今まで誰と話してるつもりだったの?」

「ようやく実感したの」


あの都筑くんが、私の知らない場所で7年半を過ごして、ここにいる都筑くんになって再び私の前に現れたのだ。同じ都筑くんだけれど、違う都筑くん。でも昔からずっと続いている、一人の都筑くん。


「ふふ」

「え、一人で笑うとか気持ち悪い」

「うるさいな!」


私もきっとそんなふうに、変わったところと変わらないところと、両方持って過去の続きを生きている。


「同窓会、来たらいいのに」

「お前の土産話だけでいいよ」


私の見ている前で、おいしそうにコーヒーを飲み干すと、都筑くんは立ち上がった。上着に袖を通して、鞄を持つ。


「じゃあな、コーヒーうまかった、サンキュ」

「引き留めてごめんね、疲れてるのに」


片脚で飛び跳ねながら玄関まで見送ると、靴べらがないせいで若干履きづらそうに革靴に足を入れながら、都筑くんが真顔で振り向いた。

はっ。


「…来てくれてありがとう」

「こちらこそ、もてなしありがとう」


なんだか妙に丁寧な返礼をもらってしまった。


「足、大事にな」

「うん」

「おやすみ」


その優しい響きに、はっとした一瞬の間に、都筑くんは出ていってしまった。

閉まりかけたドアに飛びついて、間違えて使ってしまった右足の痛みに飛び上がりながら、廊下に「おやすみなさい」と呼びかける。

わずかにこちらを振り返って、横顔が微笑んだ。反応はそれだけで、スーツの後ろ姿は階段のほうへ行き、見えなくなってしまう。

おやすみ。

困ったことにその声の温もりは、その晩なかなか私を眠らせてくれなかった。

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