イジワル御曹司に愛されています
──別れ際、都筑くんがついでのように言った。


「この間も言ったように、これからは倉上メインで動く予定だったんだけど」


乗り換え駅の改札を出たところで、別の路線に向かう私を呼び留めて。


「うん…?」

「俺もこれまでと変わらず対応させてもらうことになったから」

「え?」

「御社の松原さんが、都筑を気に入ってくださっているようだったので。こいつはステイってことで。僕と都筑の二名体制で対応させていただきます」

「あっ…、そうなんですか」


とっさに言葉が出なかった。


「あの、大丈夫なんですか、そんなことしていただいて」

「誰がフロントを務めるかってだけの違いだから。窓口やってなくても俺はここの仕事してるし。ってこれも前に言ったよな」

「というわけで、微差の新体制、よろしくお願いします」


にこっと倉上さんが微笑み、改札のほうへと足を向ける。連なって行くそぶりを見せた都筑くんが、ふと私のほうへ一歩戻った。


「言っとくけど上司判断だからな。俺が言いだしたわけじゃない」

「…そう」

「よろしく。お前は嫌だろうけど」


冷たい一瞥。私は感情を顔に出さないように、必死だった。


「…別に、嫌じゃないよ」

「あ、そう? じゃあな。松原さんによろしく。お疲れ」


ふいと背中を向けて、倉上さんに並び、さっさと行ってしまう。

慣れない駅で、置いていかれたような心細さの中、あの背中を見送るもんかと自分の路線の改札を目指した。

なんなの、もう。

なんでこんなことになったの。

ちょっとだけ見えた、あの淡い光は、いったいどこへ行ってしまったんだろう。

< 62 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop