イジワル御曹司に愛されています
都筑くんは、特別おかしなことを言ったつもりもないらしく、平然としている。


「…私が、嫌ってる?」

「俺に聞いてんの?」

「どうしてそう思うの?」

「お前がそう言った」

「いつ?」

「卒業式の日」


高校のときの話?

え、私が都筑くんに、面と向かって嫌いって言ったの? いったいどういうシチュエーションで?

ぽかんとする私に、都筑くんは訝しむような目を向け、「覚えてないのか」と確認する。うん、覚えていない…。


「そりゃ、よっぽど自然に出た言葉だったんだな」

「えっ、私、なんて言ったの」

「『もう会わずに済むのが嬉しい』って」

「都筑くんに?」

「ほんとに覚えてないのかよ?」


覚えていたらこんなに動揺しないよ…。

私は汗の浮いてきた額に手を当てて、記憶を探った。ちょっとなにか、引っかかってきそうな気もするんだけれど、焦ってしまって釣り上げることができない。


「ごめん」

「いいよ、別に。好かれてるとも思ってなかったし」

「でも、ごめん、そんな失礼なこと」

「覚えてないんだろ? なら謝られても」

「だってそんなの嘘だもん、私、嫌いじゃないよ!」


私の剣幕に、向こうが目を丸くした。自分でもびっくりするほどの大声を出してしまった私は、慌てて口を覆う。顔が熱くなってきた。

都筑くんが、自動販売機に寄りかかって、そんな私を観察する。


「それ」

「え」

「あのときもやってた。言い終わった後、"しまった"って感じに」


指さされ、私は口を覆っていた自分の手を見た。
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