イジワル御曹司に愛されています
ごめんな
夢の中で私は、制服を着ていた。懐かしい、ウールの重さ。続いた雨のせいで、湿った匂いがしている。

どうしてこれが夢とわかるのかというと、目の前にいる金茶の髪の男の子のことが、怖くないからだ。優しい都筑くんだと、知っているから。

けれど夢の中の私は、心臓に汗をかくほど緊張している。あっち行って、こっち来ないでってガチガチに警戒している。


『大学、東京なんだっけ?』


なんで知っているの、と夢の中の私は思う。上履きのつま先は、きびすを返して逃げようか迷っていて、でも自分にそんな勇気がないこともわかっている。


『…そう』

『本命だろ。すげー勉強してたもんな、おめでと』


バカにしている。

それしかできることがなくて、だから精一杯やるしかなくて、そんな狭いところでしか成功体験を得たことのない私みたいな人種全体を、バカにしている。


『ありがとう』

『なあ、なんでいっつもそう嫌そうなの?』


渡り廊下の屋根が、彼に影を落としている。胸のあたりまでの高さの仕切り板に腕をかけて、くつろいだ様子の都筑くんは、学校を我が物と思って生活してきた余裕に満ち溢れていて、劣等感を刺激した。

前を開けた学生服の中は、さすがに卒業式だからか、珍しくスクールシャツ。裾からのぞく、使い込まれた茶色のベルト。

皮肉を言っているふうでもなく、彼は不可解そうに眉をひそめ、聞いてきた。


『俺、別にお前になにもしてなくね?』


愕然とした。

"なにもしてない"だって?

見かけるたび、意味もなく声をかけてきて、からかい半分に人のこと探って。それがどれだけこっちを消耗させたか。

三年間、私は毎日、今日は会わなくて済みますようにって、祈りながら学校に来ていた。

毎日毎日。三年間。

それがどれほど…どれほど…。


『…ほんと、嬉しい』

『え?』


高校最後の日。これでもう、顔を合わせることもない。そう思ったら少しだけ気が大きくなって、衝動的に口にしていた。


『あなたに、もう会わずに済むのが、本当に嬉しい』

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