イジワル御曹司に愛されています
仲いいなあ。

高校でも、都筑くんとよく一緒にいる男の子はいた。同窓会で会ったふたりなんかもそう。けれどこういう感じではなかった。取り巻きというと響きが悪いけれど、まさにそんな感じ。

仕事、合っているんだろうな、都筑くんに。認め合える仲間と刺激的な仕事と、たぶん優れた上司さんとに囲まれて、楽しいんだと思う。

きっと今の都筑くんのほうが、彼の素に近い。


「あの…」


別れ際、ロビーで一瞬、都筑くんをつかまえた。


「ん?」

「あのね、続・街歩きをお届けしたいんだけど…」


小声で伝える私のほうへ、ちょっと身を屈めてくれていた都筑くんが、先を歩く倉上さんの背中に視線をやる。


「倉上」

「うん?」


人のよさそうな顔が振り向いた。


「俺この後、京橋のお客さんのところ寄って、直帰するわ」

「あ、そう? じゃ会社戻ったらホワイトボード書いとくよ」

「サンキュ」

「じゃーな、お疲れ。失礼します、千野さん」


ぺこりと頭を下げ、倉上さんが建物を出て、駅のほうへ歩いていく。見えなくなったあたりで、都筑くんが私を振り返った。


「お前が終わるころ、また来る。何時?」

「えっと、じゃ、じゃあ、6時」


都筑くんて、決断早い。私はびっくりしつつ、定時に上がる決意を固めた。都筑くんは私の勢いを笑うように「了解」とうなずく。


「今日のポイントの中に、食い物屋ある?」

「ある、おしゃれな飲み屋さん」

「じゃ、そこで食おうぜ」


そう言うと、にこっと微笑んで出ていった。

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