イジワル御曹司に愛されています
そうかなあ。そうだとしても、やっぱり優秀だから採用されたんだと思うよ。

ワイシャツ姿の都筑くんが、ちょっと腰を上げ、壁のフックにかけた上着を探って煙草を取り出した。一本くわえ、キャンドルを取り上げて火をつける。


「煙草、いつから吸ってる?」

「風紀委員かよ?」

「…そう答えるってことは、昔から吸ってたんだね」


要するに高校のころから。都筑くんはあからさまに私の言葉を無視し、煙草を指に挟んだ手で、ワインを飲んだ。


「うち、母親が吸う人でさ。いつでも手の届くところに煙草があったんだよな」

「お母さんが吸うんだ」


その内容にも驚いたけれど、私は彼の口から、家庭の話が飛び出したこと自体に驚いた。


「すごいヘビースモーカー」

「都筑くんて、一人っ子?」

「そうだよ」

「じゃあお母さん、溺愛だね」


軽率に言ってしまってから、彼が年末年始に帰らなかったことを思い出した。私の動揺には気づかない様子で、都筑くんがちょっと苦く微笑む。


「そういう感じでは、ないな」

「そうなんだ…」

「千野は? 兄弟」

「兄がひとり。10歳離れてるから、私、お兄ちゃんっ子だったの」

「こんな妹いたら、かわいがるしかないよな」


楽しそうに笑う顔を見て、ついうろたえた。今さらながら、都筑くんとふたりで飲んでいるという現実を疑ってしまう。


「あの、今日紹介したところで、どこが気になった?」

「カフェスタンドとコロッケ屋」


即答だったので、揚げたてのコロッケ片手にコーヒーを飲んでいる姿が苦もなく頭に浮かんでおかしくなった。


「私もそこは通おうと思ってたから、会うかもね」

「マジか、じゃあ行かないようにするよ」

「ええー!」


なんでそんな意地悪言うの、と思ったのだけれど、そういう感じでもなかったように思え、あれっと首をひねる。
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