イジワル御曹司に愛されています
「後から倉上さんが来たりするの?」

「来ないけど」


…じゃあ、なんで?


「暑い?」

「そういうわけでもない。あのさ、リハーサルみたいな感じで、模擬討論会をやろうと思ってるんだけど」


疑問が解消されないまま、話が始まってしまった。私は首をひねりつつも、都筑くんの出してくれた日程やプランを一緒に検討し、一時間ほどああでもないこうでもないと話し合った。

途中で気がついた。今日の都筑くんは、なんだか変だ。

物音に反応して急に口をつぐんだり、妙に神経質だったり、集中していなかったり。こんな様子を見るのは初めてで、私は心配になった。


「都筑くん、具合悪い?」

「悪くないよ、なんで?」

「………」


なんでって。自分が一番わかっているだろうに。

じろっと見ると、その視線が気まずそうに揺れる。都筑くんはふうっと息をつき、背もたれに身体を預けて、頭の後ろで手を組んだ。


「わかる?」

「わかるよ、体調悪いなら無理しないでよ」

「いや、そういうんじゃないんだ」

「じゃ、なに?」


答えようとした彼より先に「なんでもないとかごまかさないでね」と釘を刺すと、彼が言葉の行き先を失った様子で口を開いたまま黙り、それから苦笑した。


「さすがだな」

「なにかあったの?」

「自分で言ってて冗談みたいなんだけどさ、ちょっと監禁されてた」

「えっ?」


監禁?

私に信じる気があるのか確かめるみたいに、都筑くんがこちらをじっと見る。ここで都筑くんが嘘を言う理由なんてないから、本当のことなんだろう。
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