イジワル御曹司に愛されています
「…いつ、どういう事情で?」

「先週。うちの会社…親父の会社のほうな、株主総会があったんだ」

「3月って珍しいね?」

「そうでもないよ。12月決算の会社はたいてい3月に総会で、けっこうある。ここは3月決算だろ?」

「なんでわかるの?」

「官公庁とかかわりのある会社は、たいていそうだからさ。公的機関の予算編成が4-3月だから、取引先もそれに合わせるんだ」


へえ…知らなかった。学校と同じで、基本的に日本は4-3月を年度として回っているんだとばかり思っていた。


「まあそれは置いといて。で、俺もうちの株持ってるから、出るつもりだったんだけど、どうやら出させたくない奴がいたらしくて」

「だから、監禁、されたの」

「そう。まあ自由に動けたし、連れ込まれた部屋から出してもらえないってだけだったんだけど、やっぱり残るな、ああいうのって」


困ったようにため息をついて、当時の窮屈さを振り払うみたいに首をひねっている。そんな、ちょっと歩いたら身体痛くなっちゃってさ、みたいな軽いニュアンスで言われると、ますます心配になる。

そのとき、はっと思い出した。


「…叔父さんが関係してる?」


都筑くんの目が大きく見開かれる。


「知ってるのか」

「同窓会のとき、話が出てた…」

「あー、そうか、地元はそりゃ、知ってるよな」


身内の揉め事が漏れて恥ずかしいのか、複雑な顔で笑む。

ねえ、閉じ込められるって、ただごとじゃないよ。そんなふうに笑っている場合じゃ、ないんじゃないの…。

都筑くんが腕時計を見た。


「そろそろ帰らないと」

「あっ…うん」


手際よく資料をまとめて鞄に入れる様子は、いつもと変わらない。でもさっきの話を聞いてしまった身としては、なにをされても無理しているように見える。

ドアをくぐろうとしたとき、ふと都筑くんの顔色がかげったように見えて、思わず手を伸ばした。

頬にさわった瞬間、彼がはっと身体を引き、その拍子にガンとドア枠に頭を打ちつけて呻く。
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