イジワル御曹司に愛されています
「いっ…て」

「あっ、ごめん!」

「なに?」


打った後頭部ではなく、私がさわった頬のほうを押さえて都筑くんがにらんだ。


「あの、熱でもあるんじゃないかと思って」

「ねーよ」

「でも、顔赤いよ…」

「今なったんだよ、これは」


ええ…本当に大丈夫なの?

何度も来ているおかげで勝手知ったる足取りの都筑くんに、なかば置いていかれかけながら廊下を小走りに進む。ロビーを通過して、外へ出るガラスドアをくぐろうとしたところで、都筑くんが振り向いた。


「どこまでついてくる気だよ」

「あっ…あれ?」


そういえばそうだ。

彼の背後で開いた自動扉から、初春の日暮れ時の、冷たい空気が入り込んでくる。急に身体が冷えたおかげで間抜けにもくしゃみをするはめになった私を、あきれ顔で都筑くんは見下ろし、手で追い払うような仕草をした。


「早く戻れよ、じゃあな」


そのそっけなさに反抗心が湧き、ドアが閉まる前に私も飛び出す。突如横に現れた私に、都筑くんがぎょっとした様子を見せた。


「なんだお前」

「も、もう少しちゃんと説明してくれないと、気になって帰せない」

「あ?」


顔を見ると言い返せなくなりそうだったので、まっすぐ前を見たまま並んで歩く。コートも着ていないので、寒い。震えているのを見かねたらしく、都筑くんが私を手招きし、ビル前のカフェワゴンで温かい飲み物を買ってくれた。


「強情だな」

「あんな説明だけして帰るほうが、どうかしてない?」

「そう言われても、ほかに話すようなことも別に…」


いつも私にだけ、甘くてミルクの入ったドリンクを選んでくれるのはなぜなんだろう。そういうイメージなんだろうか。今日はこってりと甘いカフェオレだ。

歩道と車道を区切る柵に、学校帰りの高校生よろしく並んで座る。

温かいカフェオレの影響で鼻をすすると、都筑くんが足元の鞄を探り、ふわふわしたものを私の顔に押しつけた。
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