イジワル御曹司に愛されています
「大株主なんだよね?」

「そうです」

「なら単純に考えれば、票を操作することだね。もしその人が事前に手続きしていないんなら、不参加は自動的に賛成とみなされる。これで大量の票が入る」

「なるほど」

「あとは、前に聞いたことがあるのだと、総会自体をお流れにする目的とか」

「お流れ?」

「参加者が定数に満たないと、なにも決められないって決まりがあるんだよ」


そんなことが…。


「普通はあり得ないんだけど、ちょっと前にそんな総会があってニュースになってたよ。あまりにあり得ない話なので、派閥争いがあったんじゃないかって噂」


そこでも派閥。

キャビネットをのぞいたついでに未整理の書類を仕分けしながら、だんだんと不安が募ってくるのを感じていた。

どんな目的があったにせよ、都筑くんはいいように使われて、片方の派閥からは疎まれて、もう片方からはたぶん、後継者として期待をかけられている。

昨日今日始まった話じゃないはずだ。そんな騒動に巻き込まれるかたわら、ずっと過ごしていたんだろう。


──千野と仕事するの、楽しかった。


もしかして、仕事をしていないときは、つらいことのほうが多かったのかな…。


「都筑さんなんだけどさ」

「はっ、はい!」


頭の中を読まれた気がして、大げさな声を出してしまった。松原さんのほうがびっくりして、バインダーを手に固まっている。


「すみません、なんでしょう」

「いや、送別会やりたいなと思って。でも来月は慌ただしいかなあ」

「聞いてみます」

「よろしく」

「松原さん、よほど都筑くんを気に入ったんですね」

「ん? ふふ、彼さあ、高校のとき、ちょっとあれじゃない? 荒れてたっていうか、危なっかしかったタイプじゃない?」
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