イジワル御曹司に愛されています
きみのために
絶望に似た気持ちになっている私に、松原さんが声をかけた。


「"協会の無配慮にこの先を懸念し"とある。なにか心当たりはある?」

「いえ…あっ」


そうだ、小木久(おぎく)さんというこの先生、この間、別の先生から"険悪"だと教えてもらったうちのひとりだ。でも無配慮ってなに?


「険悪? そう言ってたの?」

「はい、海外の研究所との連携の機会を奪われたということで。申し訳ありません、聞いたときにすぐご報告すればよかった」

「気にしなくていいよ、噂話のレベルだったんでしょう、それよりこの"無配慮"ってなんだろう」

「私もわかりません…」


そのとき、デスクの上で私の携帯が震えた。ふたりしてそちらを見る。都筑くんからの着信だった。


「はい」

『メール見た?』

「見た、ごめん、こんなことになって」

『俺、今から先生のところ行ってくる。登壇依頼とか、最初にしたのも俺だし』

「私も行くよ、大学だよね?」

『そう、あ、もしかしてそこに松原さんいらっしゃる? 替わって』


私の視線を受け、自分を指さしてきょとんとしている松原さんに携帯を渡した。


「松原です、うん、見たよ」


彼らが会話している間にデスクを片づけ、外出の準備をする。この時間だと直帰だ。出先から結果を松原さんに報告しよう。


「うん、了解です。ありがとう、よろしくね」


松原さんがぽんと携帯を返してくる。なにを話したのか気になる。


「"協会"とあるけど、自分たちの手落ちかもしれない、申し訳ない、ってさ。現状心当たりはないけれど、誠意ある対応をさせていただきます、って」

「そうですか…」

「ここで僕と直接話してくれるあたり、やっぱり裏切らないねー」


もう大好き!と浮かれながら席に戻る松原さんを、部の人たちが気味悪そうに見ている。私はバッグとコートを持った。
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