悪魔くんとナイショで同居しています




夜景を見れるのももう最後。

つまりそれは、人間界には戻って来られないと言うことだ。



紗千にも二度と会えない。

お母さんにも二度と会えない。



「悪魔になったら長生きできるんでしょ?食事や睡眠が無くたって生きられるくらいだもんね?」

「まぁ、百年は簡単だな」



だったら……。

紗千やお母さんの顔を忘れてしまわないように。

いつでも思い出せるようにしておきたいんだ。



「魔界に行く前に声をかけてね?お別れはちゃんとしたいからさ」

「分かってるよ。そのつもりだ」



今までは全てが幻のように感じていて……アーラと出会ったその時から。

何もかもが夢みたいで、少しも現実味なんて無かったんだ。



でも、今は違う。

私はもうすぐこの世を去るのだと、もうすぐ魔界に行く実感がわいてきた。



「……何故泣くんだ?魔界に行きたいって言ったのはお前だろ」

「ごめっ…。ちょっと、寂しくなってきただけだから」



気付けばまた、涙が止まらなくなっていた。



もう泣かないって決めたのに。

辛いことや哀しいことばかりの世界なんて、何の未練も無いと思っていたのに。



「お前……ちっとも魔界に行きたいなんか思ってねぇじゃん」



まだこんなにも未練があるなんて。




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