今宵満月の夜、ヴァンパイアの夢を
頭がおかしくなりそうなくらい熱い身体。確かに痛いのに……それよりも……熱いその一言だけ。
「あっ……カルマっ…」
おまけにでるのはおかしな声。求められてる……彼に……。そう思えば拒否できないのは何故なのか。
「……カル……」
だんだん苦しくなってきて、再び名前を呼べば彼はゆっくりと私から離れた。妖艶な瞳に吸い込まれそう……口端から流れ出る血をペロリと舐めとったカルマに私は背筋がぞっとする。
本当に……吸血鬼だ。
少し信じていない自分もいたけれど、もう信じざるを得ない状況。ズキズキと痛む首がいまあったことを物語っている。
痛みのせいなのか、恐怖のせいなのかポロポロと涙が溢れると、彼がハッとした顔をした。
「……マリア……」
心配そうに伸びてきた手を反射的にバシッと振り払う。
「……や、やだ……触らないで……」
私のその言葉に酷く悲しい表情を浮かべたカルマは、ギュッ拳を握った。
会って間もないのに、
懐かしいと感じる手。
また会いたいと願う気持ち。
愛しいと苦しくなる胸。
だけどそんなの私のものじゃない。
さっきだっておかしな現象が起きた。自分がドレスを着ている錯覚。
ズキズキと痛む傷に、私は頭が混乱して情緒不安定になっていく。
いまこの人を怖いと思っている私が、本当の私だ。
「……私は……真理亜よ……。貴方が求めてる女性じゃない……!!!」
最早、自分に言い聞かせるようにそう叫んだ。散々身を任せたくせにひどい仕打ちではないだろうか……だけど、もうわからない。
「……お前の血に刺激されて……怖い思いをさせえすまない……」
脈打つように心臓が苦しくなる。そんな顔するなんて卑怯だ……だけどこのまま身を任せちゃダメ……どんどん自分がなんなのかわからなっていく気がするから。
逃げるように彼から離れそのまま走って逃げていく。
「真理亜!!」
途中名前を呼ばれたけれど、私が止まることはなかった。
しかし廊下をひたすら走ると血を吸われたせいなのかフラッと倒れそうになる。
「真理亜……どうしたの?大丈夫?」
そんな私を支えてくれたのは、どこから現れたのか瑠偉だった。
「瑠偉……」
「……貧血?酷く青白い顔をしているね」
どうしてこんなところにいるのかとかそんなことは、今はいい。こんな時に現れてくれたということで、落ち着きを取り戻していく。
「……真理亜?」
「一緒に帰れないって言ってごめんね……何してたの?」
「委員の仕事だよ。俺も今日、君を待たせることになっていただろうからちょうど良かった」
ニコッと微笑まれたら、私も少し笑顔が戻る。そんな様子を遠くからカルマが見ていたことに気付かなかった。
「……くそっ……」
思い出したくないのに思い出したい。
怖いのに愛しい
私の中の感情がまとまってくれなくて、矛盾なほどに喧嘩する。
関わらない方がいい。そうわかっているのに、どうしてかまだ彼のことが気になっていた。
そしてここからだった
おかしな夢ばかり見るようになるのは。