今宵満月の夜、ヴァンパイアの夢を
えへへとウトくんが嬉しそうな顔をした後、私たちを2人きりにするためかぺこりと頭を下げて出て行こうとする。
「あ、う、ウトくん」
「ごゆっくりお話しください」
パタンと閉まるドア
まだ2人きりにされると色々気まずいのに……なんて思った。
「どうして……真理亜がここにいるんだ。」
「ウトくんに呼ばれてきたの……」
「……そうか。」
ほらね。気まずい。
なんて言ったって、私はカルマに触るなと叫んだし、彼は私の血を吸ったしもう気まずい要素しかない。
下を向いていると、視界が少し暗くなり目の前にカルマの姿。どうやら足音も立てずに近づいてきたみたいだ。
「……首は……大丈夫か?」
「あ、う、うん。」
「……悪かった……怖がらせるつもりはなかったんだ。」
本当に辛そうな顔をする彼に私の胸がズキッと音を立てる。吸血鬼というものをきちんと把握せず、無防備に血を流したままカルマに会いに行った私も悪かった……。
だって私よりもこの人の方が傷ついてるんだもん。
「こちらこそ……ごめんなさい。血が出てるのに、会いに行って刺激させちゃって……」
「……お前は何1つ悪くない。大切な女を目の前に、理性を保てなかった俺の責任だ。」
”大切な女”その言葉に少し顔が熱くなる。こういうことサラッと言っちゃうあたり恐ろしい。
カルマの長い指が首元に近づいて来たと思えば、それは寸前で止められた。そのままギュッと拳を作り、手を引っ込めている
……あ……もしかして。
私が触らないでって言ったから??
いつもはベタベタ触られるのに、今日は触れもしない彼にそんなことを思った。なんて律儀な人なんだろうか。
「……触ってもいいよ。」
私の口は気が付けばそんなことを言ってしまっていた。カルマは、少し目を見開くとなんとも言えない顔で少しだけ微笑む。
相変わらず妖艶だ。
しなやかな指がツゥっと首筋をなぞると、ゾクリと背筋に何かが走った。
「……深く噛んでしまったみたいだな……」
「……大丈夫……血は多いほうだし」
根拠がなさすぎる体事情を話すとひやりと冷たい手が私の頬を覆う。……なんて顔をするの。この人は……。切なそうに嬉しそうにまた私を確かめてる。
「この前、お前があの男に支えられて去って行った時……」
「……瑠偉……?」
「……ああ……地獄に叩きつけられた気分だった……色々思い出して……」
泣いてしまうんじゃないだろうか。
顔を見てたらそう感じた。
強いようでとても脆い人。なんだ放っておけない。
「そんな顔しないで……」
ソッと手を伸ばして彼の頬に添えればギュッとその手を優しく彼が握りしめてくる。
ああまた。愛しいと誰かが私に訴えかけている気がした。私の彼氏は瑠偉なのに。そんなことを忘れてしまうくらいに。
「……真理亜……やっと会えたのに。お前を失いたくない……」
消え入るような声に、身体が刺激されてしまったんだろうか。カルマの唇がその言葉で近づいてきたのに気付いていたのに
私は受け入れるように目を閉じていた。
ならもう離さないで。
そんなことを思いながら。