今宵満月の夜、ヴァンパイアの夢を
カルマといるのは心地良くてついつい長居してしまった。夕日が部屋を照らす頃、名残惜しそうに彼が送って行くといってくれたので、お言葉に甘える。
この前連れ去ったみたいに一瞬のことなのかなと思ったけど、せっかくだからと2人で歩いた。彼の屋敷の庭に咲いている華達が、自己主張するように香ってる。
できればもっと一緒にいたい。離れたくない。そう願うように手を握れば、カルマも同じようにその手を握りしめてくれた。
行きはバスで来たはずなのに、何故か彼とは歩いているだけで見慣れた住宅地に着く。
不思議だ……それなのに、もうそれをカルマの力と納得している自分に溢れる笑み。一体どうやっているんだか。聞いても理解できないだろうけど。
「もう、この辺で大丈夫。ありがとう」
「ああ……また」
そっと離れた手。いきなり消えた体温に泣きたい気持ちが襲って来たけれど
「明日も、会いにいく。必ず」
カルマが優しく微笑みそんな言葉をくれたおかげで、胸が楽になった。
いつのまにか消えた彼は、華と同じ香りを残す
明日も会える……もう離れ離れじゃない……
ずっと離れていたという感覚なんてなかったはずなのに、自然とそんな気持ちになる。しかし夢見心地なこの気持ちが家の前で一瞬で消えた。
「真理亜っ!」
ドクんっと心臓が跳ねたのは、瑠偉がいたから。慌てて駆け寄って来て、私をギュッと包み込む。
「瑠偉……」
「連絡取れないから心配で……体調悪かったんだよね?外に出て大丈夫だった?」
抱きしめられただけ。だけど私は、その身体をドンっと押し退けてしまった。
「……あ……」
「真理亜?」
条件反射。別に押し退けようという気持ちがあったわけじゃない。だけど、確実に身体が瑠偉を拒んだ。
「ごめんなさい……まだ熱っぽいから、うつしちゃ悪いかもって……」
無茶な言い訳をつけて、わざとらしく顔を背ける。
「気を使ってくれんだ。ありがとう……姿を見て安心したからよかった。ゆっくり休んで……」
すんなりと私の言い訳を受け入れた瑠偉は、笑顔を向けてくると中に入るまで見守ってくれていた。
カルマさんのぬくもりを消したくない。そう感じたことを伝えるには、まだ気持ちが不確かで、また今日も何か夢を見て、記憶を繋いでいければいいのに。と心から思った。