今宵満月の夜、ヴァンパイアの夢を
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その夜。
『いや……お願い……来ないで……』
『……誰か……誰か……助けてっっ!!!』
ガバッと起きた私は汗だくで、おまけに心臓が破裂しそうなくらい早く脈を打っていた。
「……夢………」
おかしな夢だ……。
何かから必死で逃げている……そんな夢。
鮮明には思い出せないけれど怖すぎる。やっぱり疲れているんだろうか。
時計を見ると深夜の2時。
額に張り付いた髪をかきあげて、ベッドからゆっくり立ち上がった。
ズキッとまた痛む首筋、ひどく乾いた喉。
お茶を飲むために部屋を出て、リビングへ向かう。住み慣れた家なのに、今日はやけに薄気味悪い。夢1つでこんなに怖がる歳でもないのに。
「……はぁ……もう。」
やっとの思いで冷蔵庫にたどり着いて、冷えたお茶を取り出した。ガラスコップにトプトプと入る液体さえ、なんだか少し怖い。
一体……何から逃げていたんだろう……。
やけにリアルに感じた……。
思い出しかけて、ブンブンと首を振り、コップを一気に空にした。
「シャワー浴びよう……」
いまだにひかない汗が気持ち悪くて、とりあえず浴室へと向かう。
首の痛みがひどくなってる……やっぱり一度お医者さんに行った方がいいだろうか。
首筋を抑えながら、廊下を抜け、脱衣所の電気をつけて中に入った。
反射的に洗面台の鏡をみた瞬間
私は息が止まる
「……っ!!」
これは? 私……?
鏡に映る髪は透き通るような金色で、目はエメラルドグリーン。少し茶色がかった黒髪は? 私の目はこんな色じゃない。
……鏡に映ってるのは誰?
そう頭で考えたけれど、この人物を私は知っていた。
おじいちゃんが持っていた肖像画の………
納得した途端、バチッ!! と消える電気。
「きゃあっっ!!!」
一体なんだっていうの。
今日は何かがおかしい……
ガタガタと身体が震えて足がすくんだけど、ずっとここにいるわけにはいかない。
『……ア……』
「……え……なに?」
誰かに呼ばれたような気がして恐怖から逃げるように声を上げてみる。
怖い……怖い……怖い
『……リア……』
うつむいていた顔を上げると、鏡の中にあきらかに私じゃないものが……
赤く光る目
マントのようなものを羽織った男
「…あ…っ」
あまりの恐怖に声が出なくて……吸い寄せられるようなその目のせいか身体も動かなくなった。
誰……なんなの……
「マリア!!!」
ガチャっと開いた扉。金縛りにあったと思っていた身体がその一言で解かれる。
「……パパ……とママ……」
「どうした?? 虫でも出たか? さっき叫んだだろ……?」
「……大丈夫? 真理亜……」
「そうじゃないの……か、鏡に」
いつの間にか電気がついていて、洗面台に目をやるといつもの私。髪の色も目の色も見慣れたもの。
「鏡にいたのか?」
気のせい……?
いつの間にか首の痛みも消えていて、夢でも見たんじゃないかと思うくらい、薄気味悪さが無くなっていた。
「……いなくなったみたい……」
「……そ、そうか……」
……バカみたい。
吸血鬼じゃないかなんて一瞬でも思ってしまった。この時代にそんなものがいるわけもないのに。