今宵満月の夜、ヴァンパイアの夢を
************
夜、辺りが薄暗くなると綺麗な満月が顔を出していた。こんな日に限って、ママとパパが帰ってない。仕事で遅くなるみたいだ。
私は、自分の部屋の窓から吸い寄せられるように満月を見つめている。
……恐怖の涙……か……
だけどそんな気持ちよりもっと複雑な気がする。確かに”恐怖”はあるけれど、そこに悲しみも入り混じっていて胸が苦しいのだ。
そんなことを思ってるうちに、ポロっとまた涙が頬を伝う。
……この日はどうしてこんなに辛いの。必死でもがき苦しんでるような…そんな気分
一体何を思って……
『…マリ…ア』
「!?」
はっきりと名前が呼ばれた刹那、首がズキンッと痛みを知らせた。それを合図に部屋の電気が不自然にバチッと消える。
「……な、な、なに……」
窓の外も一気に暗闇に包まれて、月明かりだけが唯一の光だった。
『……マリア。』
また呼ばれた……しっかもはっきり聞こえた……なに…っすごく怖い……っ!!
「だ、誰なの……??」
黙っていたら恐怖に支配される気がして、思わず質問してしまう。だけどよく考えたら、返事がきたらきたで怖いんじゃないか。
最早頭の中はパニック。
……窓を閉めなきゃ。
とりあえずやるべきことを考えて、行動に移す。
手を伸ばし少しだけ窓を閉めると、いきなり突風が部屋の中に入ってきた。
「……きゃっ……」
停電と同様、不自然な現象に更に混乱する頭
首が……痛い……っ
何かを知らせるように、ズキンッズキンッと脈打つたび痛むそこを必死に抑える。
有り得ない……有り得ない……有り得ない。
心の中で必死にこの状況を否定するが、無駄だと言わんばかりにバサッと布が擦り合うような音がした。
「……っ!!」
思わず息を飲む
……何か……いる??
その推測はもちろん当たって欲しくないもので、確かめる勇気がちっとも湧いてこない。ガタガタと震える身体、なにもできない自分。落ち着いて状況判断しようにも、非現実なことばかりで落ち着きも取り戻せなかった。
……ゆっくり…ゆっくり顔をあげよう。そしたら私の前は閉め損ねた窓。目も月明かりに慣れてきたし、後ろに何かいるならこの少しの窓に映るはず。
何もいないに決まってる……過剰になりすぎて普通のことが大袈裟に見えるだけ。
自分に必死に言い聞かせて、ゴクリと唾を飲んだ後、恐る恐る顔を上げた。
……なにも……いな……い……
「っっ!!!?」
窓越しにキラリと光った赤い何か。
あ……と思った時には恐怖のせいか、私は意識を失った。