ガラクタ♂♀狂想曲

「なんで笑う?」

「だって私はコーヒー飲みたいもん」

「ケチー」


くすくすと笑うデンちゃん。さっきは大海原にでも迷い込んだんじゃないかと思えるほど、お互い息も絶え絶えだったのに。いまは、ゆっくりと流れる時間。なんだか心地いい。


「ねえショコちゃーん」

「わかった、わかった。じゃあ、これ飲んだら考える」


駄々っ子のように身体を揺らせるデンちゃんと、シューッと微かな音が聞こえはじめるケトル。すぐしたら沸騰するであろうそれに目を移した。


「いま考えて」


するとまたコンロの火を消してしまったデンちゃん。


「コーヒーが先です」


本当はいますぐベッドへ流れ込みたいところだけれど、なんだかくすぐったくて楽しい。私の理性とやらは、一体どこへ行ったのか。

こんなことをしていて、本当にデンちゃんのためになっているのだろうか。ふとそう頭に浮かびはする。だけど目の前で楽しそうなデンちゃんを見ると、この気分を維持してあげたくなるのも事実。私とデンちゃんだけの世界が、朝の穏やかな時を刻むかのようで。


「ほら危ないよ」

「ねえショコちゃん」


まだ同じ体勢のままのデンちゃんは、すうっとそこで息を吸い込んだ。


「もう一回、してください」

「コーヒー飲むの」

「お願いします」


その言い方に、思わず吹き出してしまう。
こうやって朝日がこぼれるように優しく差し込むこの部屋で、まったりと寄り添って過ごすのもいいかもしれない。そう思ったとき——

だけどデンちゃんの携帯が鳴りはじめた。

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