ガラクタ♂♀狂想曲
貢ぎモノ
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
つい15分ほど前に"すぐ帰ってくる"と言い残し、デンちゃんは出て行ったところ。
忘れ物か。だけどデンちゃん鍵は持って出てるはずなのに——、って、放置されたままだ。
「まったく」
デンちゃんが出て行ったあと、鍵は閉めた。テーブル転がっている鍵を絡め取り、なんの躊躇いもなくドアを開ける。けれどすぐ後悔。
「久しぶり」
目に飛び込んできた光景に一瞬、怯んでしまう。もう4年以上住み続けている馴染みある風景と溶け合い、すっかり色褪せていた記憶が一気に脳裏を駆け巡る感覚。
デンちゃんから、あんなに言われていたのに確認せず開けてしまった。そこに立っていたのは、元カレだ。
「元気?」
「——まあ」
「俺はやっと治療が終わった」
デンちゃんに殴られ曲がった鼻が真っすぐ顔面に収まっている翔は、そういって少し顔を突き出してくる。あんなことがあるまでは大好きで、この人のことしか頭になかった自分が信じられないほど、冷ややかな私がいた。
「なあ、祥子」
「なに」
「治療費くれ。歯も折れちまったし、鼻イカれたから20万ほど」
「自業自得じゃない? ここは私の部屋なんだし」
「いいのか、そんなこと言って?」
そして得意げに笑ってみせる。以前は大好きだったこの表情に、全身の毛がふわりと浮くほどの鳥肌がたった。私はこの人の、一体どこがそんなに好きだったんだろうとすら思う。
それから携帯のディスプレイを私に向かって突き出す翔。そこに大きく映し出されていたのは、私の淫らな姿。