ガラクタ♂♀狂想曲
「どうだ祥子?」
胃がぐいんと一気に下から持ち上げられ、口の中に唾液が溢れた。吐きそう。
「そそるだろ? この顔見ろよ。俺のがそんなにほしかったのか。うまかったか?」
そこに写っていた私は、このクソみたいな表情でニヤついている目の前の男との行為写真だ。自分の恍惚とした表情がこれまたなんとも気持ち悪く、さっきから口の中がひどい。何度も押し寄せる吐き気にたまらず、口元へ手をやった。
「血が騒ぐだろ? またやるか? この写真と引き換えにしてやってもいいぞ。それか金」
携帯を操作する翔。
新たな写真をこちらへ翳す前に、その手を振り払う。翔の手からするりと抜けた携帯が地面を滑っていきクルクルと回った。慌ててその携帯を拾い顔を上げる。
「言っとくけど、そんなの別なとこにも保存してあるから」
息が上がって、言葉が出ない。
ふと足元へ目を落とせば素足のままで外へ飛び出していた。なんて酷いありさま。ぐっと唇をかみ締める。そういえば写真だけではなく動画も撮っていた。こんなことになるとわかっていたら撮らせなかったのに。
けれどそんなことは、いまだからこそ思えるのだ。あのときは、それが普通で、写真や動画を残したいといってくれる翔が愛しかったのだから。溜息しか出ない。
「お金を渡せば、全部消すの?」
「当たり前だろ」
「その、保障はどこに」
「俺を信用しろよ」
信用できるわけがない。
こんなのゆすりにありがちで、バカな女は騙される。お金を払ってしまうと相手の思うつぼ。付け上がるに決まっている。私だってそんなことは百も承知だ。けれど実際自分が巻き込まれるとなれば話は違った。
落ち着くためにも深く息を吐き出せば、体中がびりりと痺れる。指先まで血が通っていないんじゃないかと思えるほど、かじかんだように感覚がない。
ふたたび息を吐き出せば、それとともに力なくゆっくり瞼も落ちる。頭の中はいやに静かだ。