ガラクタ♂♀狂想曲
「こんなことして。ただスロットのお金がほしいだけなんでしょ」
「冗談きついな。治療費だ。ち・りょ・う・ひ」
そして翔は歯を見せ、新しい歯が入ったことをアピールしてきた。汚い歯の中でイヤに綺麗な歯が目立っていた。
「——わかったわ。振込先だけ教えて。今日中に振り込んでおくから」
「いま現金でほしい」
「無理よ」
「入用なんだ。いますぐほしい」
そして腕時計を確認した翔。
「そうやって急かすところを見れば、パチンコの新装が12時なの? だけどここにはそんな大金置いてないから」
「銀行で引きだせばいいだろ」
目は充血気味に血走っているし、見てるだけで吐きそう。頭がクラクラしてきた。
「お前変わったな。前は、こんなふう」
「30万。お昼には振り込んでおくから」
語らせはしないとばかりに口を挟んだ。金額を聞いて納得したらしい翔は、小さく口笛を鳴らし財布の中からキャッシュカードを取り出す。
「ちょっと待ってて。ペン取って来る」
そしてがちゃりとドアを開けた。この場にデンちゃんがいなくてよかった、と息を吐き出す。だけど、ひょっとすると翔が現れたタイミングから言って、それを見計らっていたのかもしれない。
手に持っていたスペアキーをラックの上に置き、適当な紙とペンを急いで探す。鍵を忘れて出たことに気づいたデンちゃんが戻ってくるかもしれない。
もし鉢合わせにでもなって、あんな写真がデンちゃんの目に入ったりすれば——…。最低。そんなの、耐えられない。