ガラクタ♂♀狂想曲
「必ず消して」
「わかった、わかった」
そう言って私の頭にポンと手を置いた翔。全身に震えのような虫唾が走り、勢いよくその手を払いのけた。
「じゃー、な」
口の端を上げ短く笑ったあと、ようやく私の目の前から立ち去ってくれる。時間にしても10分と経っていないだろう。ずんずんと重く打ち続ける心臓に手をやった。
これで大丈夫だろうか。
貯金を下ろせば何とかなる金額だとは言え、本当にこれでよかったのか。だけどこれ以上の手立ては、なにも思い浮かばなかった。なにより、とにかく早く立ち去ってほしかった。
あとはもう、信じるしか。
それから部屋に戻り、あれこれ考えていたけれど何も案が浮かばない。時計に目をやれば時間は過ぎていく。
ようやくのことで腰を上げ、手早く身支度を整えたあと、駅前の銀行まで出た私。大学に入ってからの貯金を崩し、一度では振り込み切れない大金を三回に分け振込みを済ませる。一息ついたころで携帯が鳴った。
『ショコちゃん、いまどこ?』
「あ、うん駅前。すぐ戻るから」
入用なものと、お酒を買いに出ていたとデンちゃんへ伝え、それからバタバタと買い物を済ませた。手にいっぱいのお酒と食材を持って家路を急ぐ。
駅前から10分と離れていない私の家への道のりは、ただひたすら無心に歩いた。
「力持ちショコちゃんおかえり。なんかすごい荷物だし」
「——ど、どうしたの??」
「ほら貸して。俺が持つ」
「ねえデンちゃん、その顔は?」
デンちゃんの姿が見え、ほっと胸を撫で下ろした矢先、その顔を見て驚いた。
「んー、殴られた」
舌先でちろりと傷口を舐め、顔をしかめる。痛々しく唇の端が赤黒くなっていて、乾ききらない血が滲んでいた。