ガラクタ♂♀狂想曲

「——お父さん、酔っ払ってたの?」

「いや素面」

「消毒しないと」


ガチャガチャと鍵を開け、先にデンちゃんを中へ通す。


「ねえビールあるんでしょ? 口ん中も切れてるから、アルコール消毒出来てちょうどいいかも」


口元を抑えながら靴を脱いだデンちゃんは、くるりと振り返ってチュッと音を立てるほどのキスをしてきた。


「大きい口開くとここが裂けるから、キスはこれぐらいしか出来ない」


そういって息が漏れたかのように小さく笑う。その姿になんだか私の胸が、ひりひりと熱を持った。

約束通りすぐに戻ったデンちゃんは、いつものようにクッションを抱え座り込み、


「よっしビールだ…っ」

「先に消毒でしょ」


プシュッとビールを空けたデンちゃんの手を止め、その脇に座る。ティッシュを手にしマキロンを染み込ませ傷口に当てた。


「イテテ」

「なんで殴られたの?」

「あー、うん。ちょっと、いいたいことあって。それで」

「なにいったの?」

「———あ、うん。でもいまちょっと、頭の中ぐちゃぐちゃで」

「わかった」


ほんの少しスッキリした顔のデンちゃんだったから、無理に聞き出そうとは思わなかった。

すると携帯がなりはじめる。確かめなくとも私の携帯だとわかった。テーブルの上に置いてある携帯へ目を移し、表示確認すれば電話番号が通知されている。あいつだ。


「出ないの?」

「うん。ほら消毒。まだ終わってないから動かないで」


鳴り終わった携帯は、しばらくしたら今度はメール受信を知らせるため短く唸った。

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