ガラクタ♂♀狂想曲

「ほらショコちゃん、しっかり。年上なんだし」

「なんかデンちゃんって、わりと博学だよね。さすがK大生」

「たまたまだって」


はじめは単なるバカなのかと思っていたけれど、全然そうじゃない。結構物知りだ。

それから"愁いを掃う玉帚"とは、お酒を飲むと悲しいことを忘れるという意味だと教えてくれた。これはお酒の効果を褒めた言葉らしい。


「へー…、だけどなんかそれ、深いよね」

「そう?」

「だって忘れちゃうのは、悲しいことだけとは限らないし、なんか深い」

「ぴんこーん」

「なに?」

「よくできました」

「どういうこと?」

「親父は愛する人も忘れるし、この言葉は酒飲むための言い訳かもって思う」


本当に今日のデンちゃんは、よく喋る。


「デンちゃんのお父さんって、どんな人なの」

「どういうとは、例えば?」

「んー、なんて言うか…、あまりデンちゃんから想像できないと言うか」


だって楽しくお酒を飲めるデンちゃんから、そんな父親なんて想像できない。弾け飛ぶほど乱れた姿も見たことない。


「ショコちゃんは、どういう人物を思い浮かべてる?」


考えるついでに、ふたたびビールを流し込む。デンちゃんはふわりと煙を吐き出した。


「ヤクザ、とか」

「あはは、なるほど。じゃあ俺は、組長の息子ってわけか」


なんだ違うのか。


「だけどある意味そうかも。だけど親父は世間からすれば、手の届かない雲のように高い地位の偉い人」


雲のように?


「難しい」

「簡単だよ」

「そうなの? じゃ社長とか?」

「んー、」


するとデンちゃんは返事を曖昧に濁したままビールを空になるまで一気に飲み干した。

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