ガラクタ♂♀狂想曲
不届きモノ
どんな思いで、あの言葉を選んだのだろうか。
あのあと私の目をじっと見つめたまま、デンちゃんは口を開こうとしなかった。
取り巻く空気がピリピリと、どこか緊張した様子で私の言葉を待っていた。
『いいよ』
私がそういったとき、どこかホッとした表情を覗かせたデンちゃん。
そばにいることで、デンちゃんの幸せの一部になることができるのなら——、それが私の幸せにもなると思えた。だって好きだから。
゛——ありがとショコちゃん″
そして私はデンちゃんの腕に抱かれ、だけどそれだけには留まらず、私たちはさらなる繋がりを求め合った。
それは言葉だけでは足らないような気がしたから。それだけでは切れた凧のように、どこかへ飛んでいってしまいそうな気がしたから。
そのまま朝を迎えた私たち。
しばらくは何ごともなく、いつも通り平凡な毎日を過ごす。
だけどこうして私たちが平凡に過ごしているしているあいだにも——
「———もしもし」
瑠美のお腹は、どんどん大きくなっているだろう。
あれから、そのことを口にしなくなったデンちゃん。私からも、なにも聞いていない。
「わかった、いまから行く」
だけどデンちゃんはこうやってたびたび、瑠美から呼び出された。事情を知っている私が、デンちゃんを引き止めることなど出来ない。
と思う。
「ショコちゃん」
「うん」
「すぐ帰ってくる」
「ん、気をつけて」
玄関を出ていくデンちゃんの後ろ姿を見送った。
これでいいのだろうか。
ちゃんとできているのだろうか。